性犯罪を初めて扱った 全国3例目の裁判員裁判が青森地裁(小川賢司裁判長)であり、4日には強盗強姦罪などに問われた被告に対して求刑通りの懲役15年の判決が言い渡された。裁判員に選ばれた牧師の渋谷友光氏(45=日本アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教団・青森ジョイフルチャペル)は判決後の会見で、涙ながらに「(被害者の)苦痛や屈辱を考えた。この裁判を通して被告には更生の道を歩んでほしい」などと語った。
今回裁判員に選ばれたのは男性5人、女性1人の計6人。内4人が判決後の会見に応じた。全国で初めて性犯罪を扱った裁判員裁判となり、被害者女性へのプライバシーの配慮や、一般事件に比べて刑が重くなりやすい傾向があるなど、全国から注目を集めていた。
渋谷氏は当初、被告が本当に反省しているかどうか疑ったと言うが、判決が言い渡された時の被告の真剣な顔を見て「(被告が)更生の道を進んで欲しいという気持ちがわき、申し訳ないが、涙が溢れてしまった」などと説明した。
92年から青森市で開拓伝道を始め、夫婦や親子の関係回復を行うファミリー・リカバリー・センターなどの活動も行っている渋谷氏だが、判決を出すことの難しさを非常に感じたと言う。責任のある役割で、ストレスや精神的な疲労もあるというが、「刑を言い渡すことは社会に対して小さくないメッセージを送られる」と話した。渋谷氏は地元のテレビやラジオのコメンテーターや、児童虐待NPOのアドバイザーなども務めており、小・中学校、病院での講演活動も行っている。
裁判員制度についてはキリスト教会内でも様々な意見が交わされてきた。カトリック教会では6月に開かれた司教総会で、司祭や修道者らが裁判員候補に選ばれた場合、辞退を希望するよう促す公式見解を発表した。約7600人の該当聖職者に対して、辞退しても選任された場合は過料(10万円以下)を支払ってでも不参加とするよう求めた。
カトリック教会では、政教分離の観点から聖職者が国家権力を行使する職務に就くことを教会法で禁じており、バチカン(ローマ教皇庁)から、裁判員としての職務が教会法に接触する可能性が高いとする回答を、非公式ではあるが得ていたからだ。しかし、一般の信徒(全国で約45万人)については、「それぞれの良心に従って対応すべきだ」として辞退は求めず、各個人の判断に委ねた。また、死刑に関与する可能性があるため良心的に拒否する場合については、その立場を尊重するとした。
一方、2月には栃木県のキリスト教団体有志による政教分離を守る会が開かれ、牧師を含む70人が参加し、クリスチャンで裁判員制度反対の立場を取る井堀哲弁護士が講演した。井堀氏は、判決の妥当性や国民の負担など法律的観点から裁判員制度に問題があると指摘する一方、「イエス様は人が人を裁くことに非常に慎重。裁判員制度に安易に賛成すべきでない」などと語った。だが、守る会は裁判員制度に反対の立場だとしながらも、キリスト教徒として同制度に賛成するか反対するかはあくまで個人の問題だとしている。
裁判員制度を定める「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(裁判員法)」では、宗教上の理由などにより「裁判参加で精神上の重大な不利益が生じる」と判断された場合は、辞退が認められるなど、信教の自由に配慮された仕組みが存在している。