いそがしい伝道旅行から帰って、新聞をみて驚いた。ロッキード事件の榎本被告の前夫人、三枝子さんという人が、被告不利の重大証言をして、世間をあっといわせている。私的な恨みもあったろうが、司法への圧迫に義憤を感じ、権力をおそれず、決死の覚悟で真実を述べたという。「だから女はこわい。女はバカだから見さかいがつかん。うっかり相談も、離婚もできん!」というのが世の男性どもの論評だろう。
昔、ペルシャの大王アハシュエロスの王妃、エステルという女性がいた。奸臣の謀略によって同胞イスラエルが全滅の危機に陥ったとき、一身の危険を冒して同胞を救ったという物語がある。そのとき、エステルは言った。「わたしがもし、死なねばならないのなら、死にます」と。
「ハチは一度刺したら死ぬというが、同じ気持ちです」
このことば、田中さんにとって、ハチに刺されたくらいですめばいいが、歴史に残る名言になりそうだ。
これは女だからどうの、というような問題ではない。世の男性諸君。この女性たちほどの覚悟が、「人間」としてありますか。なかったら、へたな女性論評はやめて、もっと自分を反省しよう。
(恵みの雨 1981年12月号掲載)
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植竹利侑(うえたけ としゆき):広島キリスト教会牧師。1931年、東京生まれ。東京聖書神学院、ヘブンリーピープル神学大学卒業。1962年から2001年まで広島刑務所教誨師。1993年、矯正事業貢献のため藍綬褒章受賞。1994年、特別養護老人ホーム「輝き」創設。著書に、「受難週のキリスト」(1981年、教会新報社)、「劣等生大歓迎」(1989年、新生運動)、「現代つじ説法」(1990年、新生宣教団)、「十字架のキリスト」(1992年、新生運動)、「十字架のことば」(1993年、マルコーシュ・パブリケーション)。