「私は、自分はすでに捕らえたなどと考えてはいません。ただ、この一事に励んでいます。すなわち、うしろのものを忘れ、ひたむきに前のものに向かって進み、目標を目ざして一心に走っているのです。」(ピリピ3:13−14)
目標のある人生は楽しい喜びの人生です。ギリシャの哲学者アリストテレスは、「すべての人間は一つの目標を求め続ける。成功か、または幸福を!」と言いました。目標を持つ時、人生は意味あるものになります。目標がないのは、寂しくつらく、あてどのない旅をするようなものです。
私は数年前、旧ソ連をシベリア経由で一人旅をしました。ノボシビリスクというシベリアの百万都市に四日間滞在しました。三日目にもう退屈で仕方がなくなり、散歩へ出ました。ノボシビリスクはオビ川に面した都市でしたので、川まで歩いてみました。オビ川は全長約五千二百キロの大河です。乗船場まで行くと、今まさに乗合船が出航しようとしているところでした。何の考えもなしに飛び乗ったのですが、ロシア語は読めない、話せない、聞き取れない、全然わかりません。船の行く先も、どれだけ乗るのか、いつ帰りの船があるのか、何も分からないままに、ゆっくりと大河を下る船の上に、四時間もボケーッと乗っていました。確かにスリルはありましたが、本音はものすごく心細く、心配でした。今、世界地図でオビ川を見る度に、あの日のことを思い出し、目的のない、目標もない行き当たりばったりの人生であってはならないと心するのです。
目標が設定されるまでは何も起こらないし、一歩も前には進めません。目標がなければ、人はただ人生をうろつき回り、オビ川の上を漂うようなものです。自分がどこへ行くのか分からないで、よろめき歩き、結局はどこも行き着く所がないのです。
目標は、空気に命が必要であるように、成功するために絶対必要なものなのです。目標なしで成功した人はありません。“待ちぼうけ”という歌がありますが、一度くらいはうさぎが飛び込んで来ることもあるでしょう。しかし、確率から言えば無理です。結局は荒れ放題の畑になってしまい、何も手に入れることができないのです。
だから、あなたがしようとすること、行こうと思うところ等、はっきり「的」を絞ることです。大切なことは、あなたがどこにいたとか、どこにいるとかではなく、どこへ行こうとしているかなのです。
次のような手順で、目標を設定し、あなたの人生計画を立てて下さい。
一、人生に何を求めているのかを決め、それを書き出して下さい。
求めるものは、あなたの人生の目的にそったものでなくてはなりません。あなたの人生の目的がはっきりすれば、目標設定はすぐできるようになります。
人生の目的を仕事やお金を貯めることにすれば、あなたは「目的」と「手段」を混同しています。仕事や金儲けは、あなたの人生を幸福にする「手段」なのです。趣味を持つことも家庭を築くこともすべて、人生の崇高な「目的」を達成するための「手段」です。そのことを深く考えてみることも大切です。
二、自分がどんな人間になりたいかを決めて下さい。
今どうであるかではなく、これからどんな人間になるのかを考え、それを基準にして、大いに伸ばしたいと思うパーソナリティや性格を書き出して見るのです。
誠実な人 努力する人 目標を持った人 自分をごまかさない人
温かい人 忍耐強い人 実行力のある人 自分の可能性を信ずる人
健康な人 冒険する人 包容力のある人 人の長所を見つける人
親切な人 勉強する人 常に前進する人 人から好かれる人
勤勉な人 頭のいい人 嘘を言わない人 豊かな心を持つ人
素直な人 清廉潔白な人 心の美しい人
あなたはどんな人になりたいのですか。私たちは常に、目標にすべきイメージを持ちたいものです。「パーソナリティ」という言葉は、普通性格とか人格と理解されていますが、それだけでは言い尽くすことのできない意味を持っています。それは「自分らしく生きる生き方を持った人間」と言う意味が込められて、使われているのです。
さて、魅力のある人間になりたいとみんな願っています。魅力あふれる人で出会った時、私たちは感動し、尊敬し、あこがれます。
こんな話があります。美空ひばりの公演を見終わった人々が、劇場から出て来る時の表情や歩き方は、どこか彼女と似ているんだそうです。ひばりファンは、日頃から彼女の生き方、風貌、しぐさ等すべてにあこがれています。あこがれに近づく一番の方法は、彼女の舞台を見ることです。二時間あまりも彼女の舞台を見つめていると、それが作り物の世界であっても、彼女の一面に触れたような気持ちになります。ファンは舞台を通して、歌や演劇を楽しむ以上に、美空ひばりという“パーソナリティ”を見つめていたのです。
人はその愛する人、尊敬する人に似るとよく言われます。あなたは自分のなりたいイメージをはっきり持っていますか。それはだれかの真似をするというのではありません。あなたが自分で決めるイメージなのです。
目標に向かって全エネルギーを注ぎ出す人には、男性であれ女性であれ、強烈なパーソナリティを感じます。人間の魅力とは、その目標に支えられた強烈なパーソナリティ、なのです。
三、この目的、願望、自己イメージを達成するために、これから実行することを、五〜十年の長期目標として決めます。
その時大切なのは、最低三部門(仕事・家庭・社会)に分けた目標を立てることです。六分野に分けることもできます。(仕事・家庭・社会・健康・経済・精神面等)
いずれにせよ、はっきりと正確に、目標を設定することです。
今から十年後の私はどうなっているか―十年間の計画ガイド―
A.仕事部門―今から十年後
1.私はどれくらいの収入を得たいと思っているか?
2.私はどの程度の責任と地位についているか?
3.どのくらいの権限を持ちたいか?
4.私の仕事からどんな名声を得たいと期待しているか?
B.家庭部門―今から十年後
1.家族と自分自身、どんな生活水準を保とうとしているか?
2.どんな家に住もうと望んでいるか?
3.どの程度の休暇を取ろうと考えているか?
4.子どもたちの教育水準と、経済援助をどの程度にしようと考えているか?
C.社会部門―今から十年後
1.私はどんな友人を持ちたいと思っているか?
2.どんな社交グループや、団体に所属したいか?
3.自分が住んでいる地域で、どの程度の影響力を持ちたいと思っているのか?
4.どんな立派な信仰や思想を持ちたいのか?
このように自分の目標を設定して行く時、それが夢に終わることを恐れてはならないのです。現代は、人をその夢の大きさによって測ります。やろうと目標を定めることはすばらしいことです。
私の知り合いの成功した社長夫妻は、若い時、本当に苦労しました。二人が結婚した時、二畳の部屋に住みました。しかし、夢は一度も捨てませんでした。二人はよく話してくれます。「箸ほどの大きさの希望を持てば、針ほどの望みがかなう。棒くらいの大きさなら、箸くらいの望みがかなう。大木ほどの夢なら、棒ほどの望みがかなう。もっと大きく、もっと大きくと、夢を、希望をふくらませて来ました。そして今、これだけの望みがかないましたが、まだまだです」と語る二人は幸せにほほえんでいました。
自分の願いに忠実になること、正直に夢を、希望を考えることです。多くの場合、人々は夢と希望を破壊されてしまいます。成功を自滅させるために、普段五つの武器が使われます。
A.自己軽視……こうしたかったんですが、私は駄目でした。失敗者はいつも言い訳があります。
B.安全病……もうこれ以上は…今で十分です。一歩も前進できません。
C.競争……もうこの分野は一杯です。余地がありません。
D.親の言いつけ……おやおやですね。賢明な両親が望んでいるのは、子どもの成功した姿を見ることです。じっくり話し合えば、いさかいが起こるはずがない。
E.家庭に対する責任……本当に欲するなら、エネルギー、熱意、心の張り、そして健康は、家族があればなおのこと出てくるものです。
四、長期目標を実現するために、一年あるいはそれ以内の短期目標を決めることです。
この場合賢明な方法は、一年を三カ月に分け、目標を実現するための具体的な計画を立てることです。そうすると当然、今日一日、何をしなければならないか、一週間、一カ月と明確なスケジュールを立てることができます。またタイム・マネジメントも必要になってきますので、毎日が充実したものになり、生きることが喜びとなり、感動となります。
朝、目が覚めたら即座にベッドから出て、朝食のテーブルでは、家族と心のこもった対話をします。充分な時間的ゆとりを持って家を出て、会社へは早めに着き、遅刻、無断欠勤はしません。始業までに、その日の仕事の手順がちゃんと理解され、重要な仕事の優先順位もはっきりしています。会社にとってなくてはならない自分であると自信に溢れ、今日という日は、目標達成になくてはならない日だと自覚しています。難しい仕事にはファイトがわき、今日すべきことは明日に延ばさず、良いと思うことはすぐ実行に移す決断力もあります。
短期目標の積み上げが、あなたの目標を達成する鍵なのです。
「ただ、この一事に励んでいます。すなわち、うしろのものを忘れ、ひたむきに前のものに向かって進み、目標を目ざして一心に走っているのです」(ピリピ3:13−14)と、最も偉大なセールスマンは語っています。
五、目標設定でもう一つ大事なことがあります。それは達成期日を明確にすることです。
短期目標は特にその必要があります。時間は不断に流れる川のようなものです。ですから、目標を立てても期限を決めなければ、目標は時のかなたに永遠に消えてしまいます。だから、具体的にどれだけのものをいつまでにと、はっきりさせておきましょう。「成せば成る」の姿勢が必要です。そのためには、目標達成する喜びを知ることです。それはすばらしい経験です。あなたならきっとできるでしょう。「成せば成る、成さねば成らぬ何事も、成らぬは人の成さぬなりけり」です。
六、継続は力であることを覚えておいて下さい。
うさぎとかめの話は有名ですが、中国にもこんな話があります。びっこのスッポンと六頭立ての馬車が競争したら、当然馬車の方です。しかし、半歩歩いては休み、また半歩で休むスッポンが、もし千里の道を歩く目標を持っていたとします。ところが六馬力の馬車が、どこへ行く当ても持っていないなら、当然いくら名馬でも、このスッポンにはかないません。なぜなら名馬は、脚にまかせてそこいらを走り回りはするものの、千里先のある地点に達するのは、まぐれ以外あり得ないからです。継続は力です。目標設定したら継続することです。もちろん絶対変更がゆるされないとは申しません。“これは私が望んでいるところへ、私を連れていくのに役立つだろうか?”と問うことは大切です。もし答えがノーなら、引き返すのです。でもイエスならどんな障害があっても前進あるのみです。
七、目標は常に目に見えるところに紙に書いて貼っておくことです。
忘れないためだけではありません。フランス・ベーコンは「読書は安全な人間を造り、談話は機転のきく人間を造る、そして書くことは正確な人間を造る」と言いました。
書くことは明確にするだけではなく、それがあなたの心に焼き付くのです。ですから落ち着いた所で、リラックスした気持ちで、筆で書くのはいいことです。筆でなくても、しっかりとした字ではっきり書けば、なお良いでしょう。それをいつも見ることによって、目標は、流れの中であなたを繋ぐ「錨」の役目をしてくれます。
八、目標を公表することも、目標達成の方法の一つです。
自分に公表するのが自己宣言です。しかし、親しい友人とか、家族に公表しておけば、外からの刺激が加わります。積極的な刺激は、あなたを前進させる推進力になります。
しかしやはり大切なことは、自分がそれを本当に望んでいるかどうかなのです。しっかりと自己宣言を繰り返し、目標を達成して下さい。
自己宣言は、あなたの目標に保険をかけることです。計画という機械に油を差し、目標達成に必要な内面変化を約束する保証書です。
積極的に繰り返す時、あなたの中で情熱が燃え始めます。積極人間に変わって行く自分を見ることは、楽しいことです。後は実行あるのみです。
毎日、勇気を持って、目標に向かって前進して行きましょう。
(C)プレイズ出版
榮義之(さかえ・よしゆき)
1941年鹿児島県西之表市(種子島)生まれ。生駒聖書学院院長。現在、35年以上続いている朝日放送のラジオ番組「希望の声」(1008khz、毎週水曜日朝4:35放送)、8つの教会の主任牧師、アフリカ・ケニアでの孤児支援など幅広い宣教活動を展開している。
このコラムで紹介する著書「輝き・可能性への変身」(2000年、プレイズ出版)は、同師が「ラジオ番組 希望の声」シリーズとして出版したもの。机上の空論ではなく、著者自身がその生涯において実現し、今も継続している生きた証しを紹介している。