世界の資本主義諸国が大恐慌に襲われていた1930年代、賀川豊彦は自己利益の最大化追求を善としてきたそれまでの経済学の人間観に真っ向から異議を唱え、隣人愛を持つ人間を善とする新しい人間観を前提とした「友愛の経済学」を発表し、世界を驚かせた。17日に都内で開かれた公共哲学ネットワーク(代表:小林正弥・千葉大教授)主催の学術シンポジウムで稲垣久和・東京基督教大教授は、「(今の経済問題は)哲学的な問いが問題となっている」とし、「人間とは何か」という問いに対する「(これまでの経済学の)前提が大変問題だということを考えていただきたい」と集まった市民らに訴えた。
稲垣氏は、これまでの経済学の大前提となっている人間観「ホモ・エコノミクス(経済人)」の発想についての問題点を指摘し、今の経済問題の根底に、「人間をどう見るか」という哲学的な問いがあることを示した。
その上で、「(隣人愛を人間本来のあり方とする)友愛の人間観はとても大事」と語り、自己利益の最大化追求を善としてきたこれまでの人間観を改める必要があると指摘した。
稲垣氏は、これまでの経済学の大前提を覆す理論だけに、これからの理論構築や実践は「大変な難問」であり、だからこそ政府でも市場でもない、「ノンガバメント」の担い手である市民の力が重要だと強調。「市民レベルのパワーを発揮して政府を変えていくことをやらない限り、賀川が持っていたビジョンを達成できないのではないか」と市民からの働きかけの必要を訴えた。