
エルサレムに拠点を置く宗教間対話促進団体「ロッシング教育対話センター」はこのほど、イスラエルと東エルサレムにおけるキリスト教徒をターゲットとした事件に関する年次報告書(英語)を発表した。それによると、イスラエルでは昨年、反キリスト教的偏見に基づく事件が前年に比べ増加し、計111件あった。
111件の内訳は、唾吐き、唐辛子スプレーの噴射、殴るなどの物理的攻撃が46件、落書き、放火、彫像の破壊など教会施設に対する攻撃が35件、標識の汚損が14件、口頭による嫌がらせ、キリスト教の集会に対する抗議などのハラスメントが13件、宗教的シンボルの撤去や礼拝出席の制限の要求といった信教の自由の侵害が3件だった。
報告書は次のように述べている。
「最も一般的な物理的嫌がらせは、唾の吐きかけです。ささいな事柄から公然の攻撃的行為へとエスカレートしたもので、長年にわたり問題になっています。聖職者は現在、公共の場で日常的に嫌がらせを受けており、特にエルサレム旧市街などの地域で顕著です」
加害者の大半は、ユダヤ教の厳格なグループである「超正統派」や「民族宗教派」のコミュニティーに属していた。これに対し、被害者の大半は、宗教的シンボルをあしらった服装のため、キリスト教徒だと容易に識別できる聖職者だった。
一方、昨年見られた改善としては、「被害者が事件を当局に報告する意欲が高まったこと」が挙げられた。報告書は「協力と信頼の増大に向けた前向きな傾向」だとしている。
イスラエル中央統計局(CBS)の昨年12月の発表(英語)によると、イスラエルには18万人(人口の1・8%)のキリスト教徒が居住しているが、その78・7%はアラブ系で、アラブ系住民の6・9%を占める。
報告書は、ロッシング教育対話センターが昨年12月、アラブ系キリスト教徒を対象に行った世論調査の結果も言及しており、調査から浮き彫りになったキリスト教徒とユダヤ教徒の間にある緊張関係についても記されている。それによると、30歳未満のアラブ系キリスト教徒の48%近くが、イスラエルからの移住を検討していると回答した。
この調査(英語)は、イスラエルと東エルサレムに住むアラブ系キリスト教徒300人を対象に、電話インタビュー方式で行われた。アイデンティティーに関する質問では、回答者の34%が「アラブ系キリスト教徒」、23%が「イスラエル人キリスト教徒」、13%が「パレスチナ人キリスト教徒」、11%が「アラブ人」、9%が「パレスチナ人」、7%が「キリスト教徒」を、自身のアイデンティティーを最もよく示す表現だとして選択している。
また、イスラエル社会の一部として受け入れられていると感じると回答したアラブ系キリスト教徒は30・8%で、受け入れられていないと感じていると回答したのは34%だった。受け入れられていないと感じている割合は、18歳から29歳までの年齢層が最も高かった。
キリスト教徒であることを理由に、何らかの嫌がらせを受けたことがあると答えたアラブ系キリスト教徒は、全体では1割程度だったが、中央イスラエルと東エルサレムでは2割に上った。
また、過半数(58・5%)は、イスラエル人ユダヤ教徒が混在する、あるいは大半を占める地域で、十字架などのキリスト教のシンボルを身に付けることに抵抗感はないと答えたが、東エルサレムではその割合は42%に下がった。
報告書は結論部分で、公教育におけるキリスト教関連のカリキュラム改善など、幾つかの提言をまとめている。キリスト教徒に対する攻撃があることを多くのイスラエル人が知らないのは、キリスト教徒に対する認識の欠如に理由の一つがあるとし、次のように述べている。
「無関心と知識の不十分とを問わず、多くのイスラエル人はこれらの事件に反応せず、非難もしません。これらの攻撃の非合法化を促進し、広く非難を促すためには、教育的な取り組みを通じてこの問題に対処することが不可欠です。これには、認識の機会促進、教育の提供、知識へのアクセスの円滑化、そしてイスラエル国内のキリスト教関連情報を学校カリキュラムへ組み込むことが含まれます。これらの取り組みは、全体として問題への意識を高め、問題に対する積極的行動につながることでしょう」
前年の年次報告書(英語)によると、2023年にイスラエルと東エルサレムで起こった反キリスト教的偏見に基づく事件は計89件。内訳は、物理的攻撃が37件、教会施設に対する攻撃が33件、標識の汚損が6件、ハラスメントが11件、キリスト教徒の個人財産に対する攻撃が2件だった。