
国際キリスト教迫害監視団体「オープンドアーズ」は、シリアでキリスト教徒が大量虐殺されているとする主張は根拠のないものだとし、そのような主張は逆に同国のキリスト教徒をより大きな危険にさらすだけだと警鐘を鳴らしている。
シリアでキリスト教徒が大量虐殺されているという主張は、同国北西部の沿岸都市ラタキアで今月初めに起きた虐殺事件の後に出てきた。この事件では、千人以上が死亡し、その大半は民間人で、追放されたバッシャール・アサド前大統領の属するイスラム教の少数派「アラウィ派」の住民だったとされる。オープンドアーズ(英語)によると、この事件では、数人のキリスト教徒が殺害されたものの、キリスト教徒が標的となったわけではないという。
現在、事件の背後に誰がいるのかについては、複数の見方がある。シリア暫定政権で中心的役割を果たしている「シャーム解放機構」(HTS)の部隊に責任を求める声がある一方で、暫定政府が統制できていない反政府勢力によるとの見方もある。
オープンドアーズの中東・北アフリカ地域の広報担当者であるマシュー・バーンズ氏は、シリアでキリスト教徒に対する大規模な攻撃があったという証拠はないと話す。
「事件が起きた地域で、キリスト教徒の男性4人が死亡したことは分かっています。うち1人は流れ弾に当たりましたが、信仰が理由で彼らが殺されたという証拠はありません。これは、『キリスト教徒の大量虐殺』とは言えません」
事件の後、SNSではキリスト教徒が大量虐殺されているという情報が広まり始めた。発信源の一つが、米実業家のイーロン・マスク氏も支持している「Libs of TikTok」というX(旧ツイッター)のアカウントで、「過激派イスラム教徒がシリアでキリスト教徒を一斉検挙し、殺害している。自称人権擁護団体はどこにいるのか」などと投稿した。
バーンズ氏は、このようなうわさやデマをあおることで、現地のキリスト教徒の状況が悪影響を受けることに懸念を示す。
「私は非常に心配しています。なぜなら、このようなことが現地のキリスト教徒に跳ね返る可能性があるからです。最近、キリスト教系のNGOが新大統領を相手取って訴訟を起こしたところ、シリア政府は、そのNGOと同じ教派の聖職者を呼び出し、キリスト教徒はなぜこれほど大統領に反対するのかと尋ねたのです」
「このことが示す教訓は、ニュースやSNSで話題になっていることは全て、政府や他の武装集団の目にも触れていると想定しなければならないということです。そして、それはうわさとは何の関係もないキリスト教徒に、恐ろしい影響を及ぼす可能性があるのです」
バーンズ氏はまた、少数派のキリスト教徒はたとえ標的にされていなくとも、宗教・宗派間の対立が激化する中で、虐殺による悲惨な結果を被ってしまう懸念があるとも警告した。