英国国教会のバーミンガム教区が、イエス・キリストを「真のメシア」とするクリスマスキャロルの歌詞は「問題がある」とし、司祭らに表現を見直し、より「包摂的な」環境をつくるよう指示したことが賛否を呼んでいる。
英メール・オン・サンデー紙(英語)によると、バーミンガム教区は司祭らに対し、「さらなる混乱や緊張を生じさせず、かつ降誕の良き知らせから何物も取り去ることのないような言葉」を使うよう指示したという。
バーミンガム教区が懸念を示したクリスマスキャロルは、ビクトリア女王のお気に入りだったとされる「見よ、主は輝く雲にうち乗り(Lo! He comes with Clouds Descending)」(『讃美歌』173番)。この曲は、イエスを「真のメシア(ture Messiah)」としているが、同教区はこの表現を問題視している。
また、「久しく待ちにし(O Come, O Come, Emmanuel)」(同94番)も、「捕らわれのイスラエル(captive Israel)」(日本語歌詞では「み民」と訳されている)という表現が問題視された。バーミンガム教区は、特にイスラエルとハマスの戦争に関する緊張状態が続いている状況では、このような表現は誤解を招く可能性があるとしている。
バーミンガム教区のマイケル・フォラント主教は英デイリー・テレグラフ紙(英語)に対し、この決定は地政学的な状況に影響されたものだと語った。
「バーミンガムで多様なコミュニティーと密接に連携しているわれわれのチームのメンバーが、なぜ『イスラエル』が議論されているのか、それがどう現在の紛争と関係があるのか、よく分からないかもしれない新来会者のために、何らかの背景を提供することについて考えるよう、教会に呼びかけたのです」
その上で、賛美歌や典礼を正式に変更するわけではなく、むしろ司祭たちは、クリスマスメッセージが明確で親しみやすいものとなるよう、背景を説明するよう奨励されているのだと付け加えた。
こうした動きに対し、英国国教会内ではバーミンガム教区を批判する声も上がっている。
バーミンガム教区から送られてきた電子メールをメール・オン・サンデー紙に提供した牧師は、英国国教会は「本当に方向性を失っている」と批判。ロシアのウラジミール・プーチン大統領でさえ、「ロシア正教会に対しクリスマスキャロルを検閲するよう命じてはいない」と指摘した。
また、英国国教会の元総会議員で、同教会内の保守派グループ「アングリカン・メインストリーム」で事務局長を務めるクリス・サグデン参事司祭も、この対応に反対している。
「教会があらゆる進歩主義の理念に従っているからといって、賛美歌を変更すべきではありません」
サグデン参事司祭は、ユダヤ教やヒンズー教の祭典でも同じような対応をするのかと疑問を呈した。
メール・オン・サンデー紙の編集者兼コラムニストのアンドリュー・ピアース氏は22日、自身のX(旧ツイッター、英語)に次のように投稿した。
「英国国教会は、不快感を与える恐れがあるとして、牧師たちにクリスマスキャロルを編集するよう指示しました。一体誰に対する不快感でしょうか。(中略)教会が不快感を与えているのはキリスト教徒に対してです。またしてもです」
一方、バーミンガム教区の立場を擁護する関係者は、これらのクリスマスキャロルには「置換神学の強い主張」が含まれていると強調した。置換神学とは、旧約聖書時代のイスラエルの民は神から見捨てられ、キリスト教会が新しいイスラエルになったとする考えで、一部では批判の対象となっている。
英国国教会では2022年にも、17世紀に作られたクリスマスキャロル「世の人忘るな(God Rest Ye Merry, Gentlemen)」(『新聖歌』74番)の歌詞を、女性や性的少数者に対しより包摂的に表現する内容に書き換える試みが行われ、同様の議論が巻き起こったことがある。