半世紀余りにわたる独裁政権が崩壊したシリアで、同国第2の都市アレッポの教会指導者らが、今後迫害や厳しい規制に直面する恐れもある中、政権崩壊を主導した反政府イスラム武装勢力の代表者らと会談した。
シリアでは、父子2代で50年以上にわたり独裁政権を敷いたバッシャール・アサド大統領が8日、ロシアに亡命。11月末から攻勢をかけ、アレッポやハマといった主要都市を次々に制圧していた反政府勢力は同日、政府軍の抵抗を受けることなく首都ダマスカスも制圧し、アサド政権の崩壊を宣言した。
反政府勢力の主力となったのが、イスラム武装勢力「シャーム解放機構」(HTS)。HTSは国際テロ組織「アルカイダ」系のイスラム過激派組織「ヌスラ戦線」を前身とし、現在、国連や米国など複数の国からテロ組織に指定されている。
アレッポの教会指導者らは、アサド政権崩壊翌日の9日、カトリック教会のアレッポ使徒座代理区に所属するフランシスコ会運営の教会と修道院で、HTSの代表者らと会談した。
「司教、司祭、修道士など、全員が出席しました」。カルデア典礼カトリック教会のアレッポ司教アントワーヌ・アウドは、カトリック系のフィデス通信(英語)にそう語った。その上で、イエズス会士でもあるアウド司教は「前向きな会談」だったと評価した。
HTSの代表者らはこの会談で、教会指導者らに対し、男女混合のクラスで運営している教会系列の学校に規則の変更を求めないことを保証するなど、現地のキリスト教共同体の営みに変更を強要したり、規制したりしない意向を示したという。「(HTSは)私たちの伝統と祈りを尊重することで信頼を築こうとしています」と、アウド司教は話した。
「私は彼らに、私たちアラブ系キリスト教徒は、歴史においても世界においても、ユニークな存在であることを伝えました。私は、イスラム教徒のアラブ人とキリスト教徒の歴史、そしてこの歴史に対するキリスト教徒の貢献について、幾つかの例を示しました」
「私は、ジンミー(イスラム教徒の主権を認める異教徒)の地位は、否定的にも肯定的にも解釈できること、また、キリスト教徒が二級市民になってはならず、私たちは協力しなければならないことを話ました。彼らはこうした事柄に非常に興味を持っているようでした」
一方、迫害下のキリスト教徒を支援している団体は、シリアのキリスト教徒が直面する可能性のある潜在的な危険について懸念を表明している。
米迫害監視団体「グローバル・クリスチャン・リリーフ」(GCR)のデビッド・カリー会長兼最高責任者(CEO)は、米キリスト教メディア「クリスチャンポスト」(英語)に対し、政権崩壊の数週間前に、GCRがシリアの教会に届けた人道支援物資を反政府勢力が盗んだことを明らかにした。
「私たちは過去2年間、継続的に支援物資を届けてきました。しかし現在、私たちが所有している支援物資の一部は、反政府勢力によって奪い取られました。まだ多少は残っています。私たちは、避難中の人々に可能な限り慎重に配布するつもりですが、実のところ、現在ここはキリスト教徒にとって非常に危険な地域なのです」
カリー氏によると、反政府勢力が盗んだ支援物資には、約2万人分の食料のほか、水や医薬品が含まれていた。
アレッポは歴史的に「シリアにおけるキリスト教信仰の中心地」だったが、キリスト教徒の人口は減少しているとカリー氏は指摘する。また、現地のキリスト教徒たちが安全だと感じられなければ、この傾向は今後も続くと予想する。
「テロ組織と見なされている彼ら(HTS)は、2週間足らずでアレッポを含むシリア北西部から、クルド人とキリスト教徒を民族的に一掃しました。公然の抗議があるにもかかわらず、彼らはその動きをこの国の他の地域に拡大することが予想されます」
カリー氏によると、2011年に内戦が始まる前、シリアにはキリスト教徒が人口の約10%に当たる約150万人いた。しかし、内戦やイスラム過激派による絶え間ない戦闘と迫害が続いた結果、約30万人にまで減少したという。
反政府勢力が支援物資を盗んだという報告に加え、制圧後のアレッポでは食料や飲料水が不足していることも報告されている。多くのキリスト教徒が国外へ逃れた一方、国内に残っている人々は現在、政権を奪取した反政府勢力が課す外出禁止令の下に置かれている。こうした制限により、多くのキリスト教徒が無力さを感じているという。
米迫害監視団体「国際キリスト教コンサーン」(ICC)のジェフ・キング会長は、アサド大統領がロシアに逃亡した8日、クリスチャンポスト(英語)に対し、今後数日から数週間が「(キリスト教)共同体の運命にとって極めて重要になるだろう」と語っていた。