イスラエルと隣国レバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」の戦闘を巡り、両国政府が米国の停戦案を受け入れ、現地時間27日午前4時(日本時間同11時)に停戦が発効した。これを受け、キリスト教国際NGO「ワールド・ビジョン」は同日、声明(英語)を発表。停戦は人々に生活を立て直す機会を提供するものだとしつつ、依然として多くの課題があるとして、「停戦は持続されなければならない」と警鐘を鳴らした。
ヒズボラは、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」に連帯する形で、ハマスが昨年10月にイスラエルに対して急襲を行って以降、断続的にイスラエルを攻撃してきた。これに対しイスラエルは今年9月末、ヒズボラに対する本格的な攻撃を開始。ヒズボラの最高指導者であるハッサン・ナスララ氏ら幹部を空爆で殺害するとともに、レバノン南部への地上侵攻に踏み切った。
レバノン保健省の発表(アラビア語)によると、侵攻開始以降26日までに、同国では3961人が死亡し、1万6520人が負傷した。また、100万人以上が住居を追われたとされ、ワールド・ビジョンは、「家屋や病院、重要なインフラが被害を受け、教室は緊急の避難所となり、多くの子どもたちが学校に行くことができません」と現地の状況を伝える。
レバノン支部であるワールド・ビジョン・レバノンのハイディ・ディードリヒ事務局長は、次のように話す。
「この1年間、特にこの2カ月間で、200人以上の子どもたちが殺害され、甚大な被害が出ています。レバノン南部では、村全体が完全に破壊されたことも報告されています。私たちは、この停戦が続き、100万人以上の避難を強いられている人々が安全に帰還できることを願っています。しかし、復興には何年もかかることでしょう」
「ワールド・ビジョンはレバノン全土で活動し、この危機に対応しています。食料、安全な飲料水、冬をしのぐために必須な物資を提供し、9月下旬以来20万人以上の人々に支援を届けています」
レバノンは2019年後半以降、過去最悪の経済危機に直面している。また20年には、首都ベイルートで200人以上が死亡、7千人以上が負傷する大規模な爆発事故が発生。さらに、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにも見舞われ、この5年余りにさまざまな危機が立て続けに襲った。
ディードリヒ氏は、こうした状況に言及しつつ、「停戦は、子どもたちや家族が癒やしと再建に向けた旅を始められるよう、レバノンとその人々のために維持されなければなりません」と訴えた。
合意された停戦案は、レバノン軍が60日内にヒズボラの勢力範囲となっていた同国南部に展開し、これに応じて地上侵攻していたイスラエル軍が段階的に撤退するというもの。ヒズボラも国境から北に約30キロ離れたリタニ川以北に撤退する。レバノン軍と国連レバノン暫定駐留軍(UNIFIL)が停戦監視を行い、これに米国とフランスが協力するという。
一方、時事通信によると、イスラエル軍は停戦発効翌日の28日、レバノン南部にあるヒズボラの武器庫を空爆したと発表した。イスラエルとヒズボラはそれぞれ相手側に停戦違反があったと主張しており、停戦の脆弱(ぜいじゃく)性が指摘されている。
ワールド・ビジョンは、この停戦が、暴力の影響を受けたあらゆる状況における敵対行為の持続的な終結につながらなければ、その価値は限られたものになると強調している。また、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区とガザ地区においても暴力を終わらせ、制約のない一貫した人道的アクセスが確保される必要があると訴えている。
日本支部であるワールド・ビジョン・ジャパンは、レバノンでの人道的ニーズに対応するため、10月から中東人道危機募金を行っている。寄付は、ホームページまたは電話(フリーダイヤル:0120・465・009、受付時間:午前9時~午後11時)で受け付けている。