1. 一通の封書
営業課長をしていたAさんの会社宛てに、親展で一通の封書が届いた。「貴殿と私の妻とは不倫関係にあることが分かり、私は多大の精神的損害を受けた。よって、謝罪文の送付と慰謝料および調査会社の費用の支払いを請求する」という寝耳に水の内容であった。Aさんと女性の2人が手をつないで、ラブホテルに入る場面、ホテルから出てきた場面、そして一緒にタクシーに乗る場面の3枚の写真が同封されていた。
真実は、ある晩、取引先と新宿のバーに行ったAさんが、みんなとカラオケを歌い、ホステスと踊ったりしているうちに、酒を飲み過ぎて酔っぱらい、そこで寝込んでしまった。Aさんは閉店後、その女性に連れ出され「お疲れのようですから、ちょっと休憩してから帰りません?」と彼女に言われて一緒に入ったのがラブホテルだった。
気が付いて驚いたAさんは、チェックインもせずにそのまま外に出て、最寄りの駅まで2人でタクシーに乗ったというものであった。そのような場面を写真に撮られていたということは、Aさんからお金を巻き上げる目的で、この自称夫婦により初めから仕組まれた罠であった。
Aさんは会社員そして夫としての立場から、この問題が会社や妻に知れることを極度に恐れてしまった。すぐに謝罪文を書いて送り、相手が要求する金額を振り込んでしまった。
ところが、相手はAさんが虚偽の不倫を認めた事実を悪用して、「その後、妻と別居して離婚調停中である」「この問題でうつになり精神科に通っている」「仕事に失敗して大損を被った」などの理由で、次々に新たに金銭を要求し、「お前のようなやつは会社を辞めろ」「夫として失格のお前も離婚しろ」と、理不尽な要求を突き付けてきた。
すでに貯金を使い果たしたAさんが何も返事ができないでいると、相手はAさんの謝罪文を会社の社長宛てに送ったり、Aさんの妻に送ったりしたので、彼は退職と離婚の寸前にまで追い込まれ、心身も病んできた。
2. 立ち向かう勇気
切羽詰まったAさんから相談を受けたので、「このような相手を恐れていては、状況はますます悪化していきます。ここで勇気を出して相手に立ち向かいましょう」と強く勧めた。そして、弁護士名で相手に警告状を発送し、恐喝罪などの容疑で警察署に告訴した。
間もなく2人は逮捕されたが、この手口による犯罪の常習犯であった。こうしてAさんの無実が判明したことから、会社の立場は回復し、夫婦の問題は解決し、心身も健康に戻った。
「財貨を失うことは、いくらかを失うことだ。名誉を失うことは、多くを失うことだ。しかし、勇気を失うことは、全てを失うことだ」。ウィンストン・チャーチルの言葉である。
チャーチル首相にこの「立ち向かう勇気」がなかったなら、英国はナチス・ドイツに敗北していたであろう。悪魔は、狡猾、執拗、残忍である。立ち向う勇気がなければ、悪魔の餌食になってしまう。
身を慎み、目をさましていなさい。あなたがたの敵である悪魔が、ほえたける獅子のように、食い尽くすべきものを捜し求めながら、歩き回っています。(1ペテロ5:8)
神に従いなさい。そして、悪魔に立ち向かいなさい。そうすれば、悪魔はあなたがたから逃げ去ります。(ヤコブ4:7)
その時、ダビデはひじょうに悩んだ。それは民がみなおのおのそのむすこ娘のために心を痛めたため、ダビデを石で撃とうと言ったからである。しかしダビデはその神、主によって自分を力づけた。(1サムエル30:6)
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