カトリックの男子修道会「フランシスコ会」の聖地特別管区で首席オルガニストを務めるヤクーブ・ガザウィさん(35)によるコンサートが8月24日、日本基督教団横浜指路教会(横浜市)で行われた。エルサレム生まれのガザウィさんは、イスラエル国籍を持つパレスチナ人(アラブ系イスラエル人)。昨年10月以降続くイスラエル・パレスチナ間の戦闘に心を痛めつつ、「これはただのコンサートではなく、祈りでもあります」と言い、パイプオルガンの響きに平和の願いを乗せた。
ガザウィさんが初めて来日したのは16歳の時。聖地(イスラエル・パレスチナ)の子どもたちを支援する日本のNPO法人「聖地のこどもを支える会」が企画する「平和の架け橋プロジェクト」の参加者として来た。
長年紛争関係にあるイスラエルとパレスチナ双方の若者を日本に招き、日本の若者と約2週間にわたって共同生活するプロジェクトで、ガザウィさんはその後何度も参加。現在は「聖地のこどもを支える会」の現地スタッフとなり、プロジェクトマネージャーとして3カ国の若者の交流を支える側になっている。
音楽家としては、エルサレムのマグニフィカト音楽院を経て、イタリアのビチェンツァ大学に留学。音楽理論とピアノ、パイプオルガンを学んだ。その後は、エルサレムの聖墳墓教会、ベツレヘムの聖誕教会、ナザレの受胎告知教会など、聖地の主要な教会でオルガニストを務め、現在に至る。
日本でコンサートを開くようになったきっかけは、「聖地のこどもを支える会」の理事長である井上弘子さんが主宰する聖地巡礼で、参加者がガザウィさんの演奏を聞いたこと。日本でもその音色を聞きたいという声が上がり、2017年に初めて実現した。ガザウィさんはそれ以来、日本で20回以上公演している。今回のコンサートも、7月から9月にかけて、東京と横浜の計7カ所を巡る一連の公演の一つとして開催された。
会場となった横浜指路教会は、ヘボン式ローマ字の考案者として知られる医療宣教師のジェームス・カーティス・ヘボンにゆかりがあり、今年創立150周年を迎える。会堂後ろの2階席部分にあるパイプオルガンは、世界的にも評価が高いスイスのマティス社製で、創立125周年を記念して2000年に設置された。ガザウィさんはそのパイプオルガンで、ヘンデルの「サラバンド」や、バッハの「我を憐(あわ)れみ給(たま)え、おお、主なる神よ」など、計10曲を演奏した。
「オルガンを弾いているとき、私の思いはいつもエルサレムに向かいます。エルサレムがなければ、決してオルガニストにはなっていなかったでしょう」。演奏後、ガザウィさんはそう語りつつ、その一方でイスラエルでは今、戦争のために海外移住を考える人が多くいるとし、「私もその中の一人です」と吐露。しかしそれでも、心から祈るなら、神がその祈りを必ず聞いてくださるはずだとし、平和への願いを語った。
今年の「平和の架け橋プロジェクト」は、ガザ地区で戦闘が続く中で行われたが、イスラエル人2人、パレスチナ人2人、イスラエル国籍のパレスチナ人1人が参加した。日本人参加者を含めても10人程度だが、ガザウィさんは「小さなグループと思われるかもしれません。しかし、思い出していただきたいのは、2千年前に(イエス・キリストの弟子の)12人がこの世界を変えたことです。ですから、数の問題ではなく、あなた自身がどれほど心で深く信じるかなのです」と強調。「平和の希望はまだあります」と語った。
「私たちは、プロパレスチナ(パレスチナ支持)ではあるけれど、プロイスラエル(イスラエル支持)でもあります。両者ともみんな同じ人間で、同じ幸せ、平和、安全を願っています」。井上さんはコンサートの冒頭にそう述べ、「聖地のこどもを支える会」はどちらかに偏ることなく、両者の真ん中に立ち、両者の手をつなぐ働きをしていると話した。
「聖地のこどもを支える会」は主に、イスラエルとパレスチナの貧困家庭の子どもたちのために、初等教育学校の授業料を支援する活動を行っている。活動を支える会員や寄付の募集を行っており、詳しくはホームページを。