世界中で毎週60万人以上の子どもたちが通う世界最大の日曜学校「メトロ・ワールド・チャイルド」(本部・米ニューヨーク、以下メトロ)の創立者で主任牧師のビル・ウィルソン氏が5年ぶりに来日し、7月25日から30日まで東京や大阪など全国4カ所で講演した。28日に東京で開かれた講演会では、自身の体験談を交えながら「たった一人でも変化を生み出すことができる」と語り、「理屈をこねたり、批評し合ったりするだけの世界から抜け出して、変化を起こしたい」と呼びかけた。
ウィルソン氏は12歳で母親に捨てられた経験を持つ。誰からも声をかけられず、道端に3日間座り込んでいた少年を救ったのは、一人のごく平凡なクリスチャンの男性だった。「その時、私の人生に何かが起こったのです。あれから何十年がたちました。一人の名もないクリスチャンがどんな大きな変化を生み出すことができるか、考えてみてください」
メトロの主催する日曜学校の働きは、今も世界各地で広がりを見せている。数カ月前に活動を始めたアフリカ南部のザンビアでは、1週目から4万人を超える子どもたちが集まった。子どもたちの良い変化を知ったザンビア政府からは、国中の学校で道徳授業の代わりにメトロの日曜学校をやってほしいと要請が来ているという。
しかし、貧しい子どもたちの住むスラム街での活動には、いつも危険が伴う。2003年にはニューヨークのスラム街で、路上生活者を訪問途中のウィルソン氏が強盗に襲われ、口に銃口を入れられたまま発砲された。頬を撃ち抜かれる重傷を負ったが、奇跡的に一命を取り留めた。
フィリピンでは、ゴミ山と呼ばれる最貧困地域で日曜学校を行い、親からも見捨てられた子どもたちを世話する。24年前、ウィルソン氏が視察のために初めて現地を訪れたとき、ゴミ山の間にあった何かに目が留まった。「それは死んだ女の子の髪の毛でした。ひざまずいて彼女の肩に手を当ててひっくりかえすと、その顔は既にアリだらけで、目は食い尽くされていました。その時、このゴミ捨て場でメトロの日曜学校をやると決心しました」
ロシア軍が侵攻するウクライナや、イスラエル軍とハマスとの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザ地区にも入り、一人でも多く子どもたちの命を救いたいと命懸けで奔走する。「もう75歳にもなって、そんな危険なことはやめなさいと人々は言います。でも、道端に捨てられていた私に一人のクリスチャンが声をかけてくれたときから、私の心の中には消えることのない神からの光があり、私はそれに導かれているのです。私のような子どもを助けるためにはどんなことでもすると、もう覚悟を決めたのです」
ロシア軍のミサイル攻撃によって崩壊した家屋から、ウクライナの救急隊員が小さな赤ん坊を救出する現場に立ち会った。赤ん坊は救命処置のかいなく命を落としたが、そこには、赤ん坊の命が助かろうと助かるまいと最後までそばに立ち、救急隊員の働きを必死に守る護衛兵たちの姿があった。
「いくら助けたいと願っても、助けられない子どもたちがいる。でも、たとえそうであっても、私はその兵士と同じように最後まで、子どもたちの守り手として使命を果たしたい」。言葉を詰まらせながら、ウィルソン氏は最後にそう話した。
講演では、毎月5千円から参加できるメトロの里親支援プログラム「チャイルド・スポンサーシップ」についても紹介があった。現地スタッフと共に、世界各地のスラム街に住む子どもを支えることができ、支援先の子どもとは手紙を通して交流することができる。
ウィルソン氏は、「皆さんも、私たちの働きを支えてくださる尊い働きの一部です。どうか私と一緒に、子どもたちの命を守るために立ち上がってほしい」と呼びかけた。