ルーテル世界連盟(LWF)と東方正教会は7月30日、千年近く前に西方教会と東方教会の分裂を引き起こした一因とされる「フィリオクェ問題」に関する共同声明(英語)を発表した。声明は両教派の40年以上にわたる対話から生まれたもので、5月にエジプトの首都カイロで開催された両教派の神学対話合同国際委員会の第18回全体会合で作成された。
ラテン語で「と御子」を意味する「フィリオクェ」という文言は、中世にニカイア・コンスタンティノポリス信条(381年)に追加された。フィリオクェを追加した西方教会は、聖霊は父なる神「と御子(イエス・キリスト)」から発出するとしたが、東方教会はこれに反対し、聖霊は父なる神からのみ発出するとしてきた。
聖霊が三位一体の他の両位格から発出するかどうかを巡るこの論争は、その後、東西教会間で長年にわたる争点となり、1054年のキリスト教会の東西分裂(大シスマ)の主要な一因となったとされている。
LWFと東方正教会の指導者たちは共同声明で、「私たちの共同体間の古くからの分裂を癒やすことに貢献し、ニカイア公会議(325年)とコンスタンティノポリス公会議(381年)の信仰を共に告白することを可能にすることを願って、ギリシャ語の原文(フィリオクェなし)の翻訳の使用を提案します」と表明。その上で、次のように述べた。
「ニカイア・コンスタンティノポリス信条の原文に再び焦点を当てることは、三位一体と聖霊の役割に関する神学的考察を新たに促すことになるかもしれません。さらに私たちは、私たちの三位一体の教理において、御父が御子の誕生と聖霊の発出の原因(αἴτiος)であることを、共に確認します」
LWFと東方正教会の指導者たちは、ニカイア公会議が開催されてから1700年の節目となる2025年を前に発表したこの共通声明を、両教派の「和解のしるし」になると考えている。
現代のトルコにあった古代都市ニカイアにちなんで名付けられたニカイア信条は、325年のニカイア公会議で書かれ、その後381年のコンスタンティノープル公会議で改訂された(ニカイア・コンスタンティノポリス信条)。この信条は、特に父なる神がイエスを創造したとし、従って三位一体の一部として同等ではないと主張した初期の異端であるアリウス派に対応して書かれた。
その後、589年の第3回トレド公会議で、父なる神と子なる神の平等をさらに強調する方法として、ニカイア・コンスタンティノポリス信条にフィリオクェの文言が初めて追加された。しかし、東方教会の多くは、三位一体の各位格の関係を正しく反映していないと考え、この表現を問題視。このことは、他の地域にも影響力を及ぼそうとしたローマ司教に対する懸念と共に、大シスマの一因となった。
LWFはこの他、1999年には、カトリック教会と「義認の教理に関する共同宣言」に署名している。この宣言は、「信仰による義認」の本質を巡る両者の神学的相違を解決しようとするもの。その後、2006年には世界メソジスト協議会(WMC)、17年には世界改革派教会共同体(WCRC)も署名しているこの共同宣言は、カトリック教会とプロテスタントの諸教会が、「キリストを信じる信仰による神の恵みによって義とされることについて、共通の理解を明確にすることができるようになった」としている。
LWFはスイス・ジュネーブに本部を置き、ルーテル派の世界的な連合機関として1947年に設立された。現在、約100カ国150のルーテル派教団が加盟しており、加盟教団の会員数は合わせると7700万人を超える。ルーテル派は、宗教改革者のマルティン・ルーターによって生まれた西方教会(プロテスタント)の教派で、ルター派とも呼ばれる。