26日に行われたパリ・オリンピックの開会式で、イエス・キリストと12人弟子の最後の食事の場面を描いたレオナルド・ダビンチの名画「最後の晩餐」をほうふつとさせるパフォーマンスが行われたことを巡り、キリスト教界から批判の声が上がっている。
批判が向けられているのは、エッフェル塔近くのドゥビリ橋で演じられた「祝宴」と題されたパフォーマンス。「最後の晩餐」でイエスが描かれている食卓中央部分に、レズビアン活動家でDJのバーバラ・ブッチさんが立ち、ドラッグクイーン(女装した男性)やトランスジェンダーのモデルらが周囲の12弟子を表現しているとみられる内容だった。
これに対し、フランス・カトリック司教協議会は27日、フランス語と英語で声明を発表。開会式は「感動にあふれ、世界中で称賛される美と喜びの素晴らしい表現を世界に提供しました」としながらも、「残念ながら、この式典にはキリスト教を嘲笑し愚弄(ぐろう)するシーンが含まれていました」と指摘。「深い遺憾」を表明した。
また、「連帯を表明してくれた他宗教のメンバーに感謝を表明したいです」と述べ、キリスト教以外の宗教関係者からも開会式のパフォーマンスを問題視する声が寄せられたことを示唆した。その上で、「私たちは、(開会式の)特定のシーンの無礼さと挑発によって傷ついた全大陸の全てのキリスト教徒のことを考えています」とし、「オリンピックの祭典は、少数のアーティストのイデオロギー的偏見をはるかに超えるものだということを、皆さんに理解していただきたいです」と述べた。
フランス福音主義協議会(CNEF)のエルワン・クロアレック会長も28日、自身のX(旧ツイッター、フランス語)に、開会式に対する見解を投稿。「創造的で楽しい開会式でした。しかし、ある『絵』にショックを受けました。友愛と包摂が目的なら、なぜ少数の人々の信仰を標的にし、嘲笑するのでしょうか。その必要はありませんでした」と述べた。
批判の声は、フランス国外からも上がっている。
米国カトリック司教協議会(USCCB)の全米聖体大会実行委員長のアンドリュー・コッツェンズ司教は27日、声明(英語)を発表。「約10億人の男女と子どもたちが、直接または生中継を通じて、『キリスト教生活の源泉であり頂点』であるミサが公然と嘲笑されるのを目撃しました」と述べ、開会式のパフォーマンスを批判した。ミサ(プロテスタントでは聖餐式)が制定された場である最後の晩餐が、「ひどい方法」で描かれたとし、「言葉では言い表せないほどの衝撃と悲しみ、そして正当な怒りを私たちに与えました」と続けた。
一方、「私たちは、敵が悪のために企てることを神は善のために用いられることを知っています」とし、新約聖書のローマの信徒への手紙5章20節「罪が増したところには、恵みはなおいっそう満ちあふれました」を引用。祈りと断食をもって応じるよう求めた。
この他、カトリック系のCNA通信(英語)によると、米国では他の司教らも自身のXに開会式を批判するコメントを相次いで投稿。マルタやチリ、ドイツの大司教や司教らも批判を表明した。
また、英国福音同盟(EA)のガビン・カルバー最高責任者(CEO)も27日、自身のX(英語)に「パリ・オリンピックの大成功を祈っています」としつつ、「しかし開会式で、最後の晩餐の信じられないほど配慮に欠ける描写によって、キリスト教があからさまに嘲笑されるのを見るのは、本当にひどいものでした」と投稿。「まったく無神経で、不必要で、侮辱的なものでした」と強く批判した。
批判を招いたパフォーマンスでは、全身を青く塗ったフランス人歌手のフィリップ・カトリーヌさんが食卓上に登場し、ギリシャ神話の豊穣と酒の神とされるディオニソスに扮(ふん)し、歌う場面もあった。
AP通信(英語)によると、開会式の芸術監督で、ゲイであることを公表しているトマ・ジョリーさんは、パフォーマンスは最後の晩餐をモチーフにしたものではなく、多様性を祝い、祝宴とフランスの料理に敬意を示すものだったと説明。「私の願いは破壊的になることでも、嘲笑したりショックを与えたりすることでもありません」とし、「何よりも、愛のメッセージ、包摂のメッセージを送りたかったのであって、決して分裂を招きたかったわけではありません」と語った。
また、パリ・オリンピック組織委員会のアンヌ・デカン広報部長は28日に開いた記者会見で、いかなる宗教団体も侮辱する意図はなく、社会の寛容さをたたえようとしたものだったと説明。その上で、「私たちの世論調査の結果を見ると、この願いは達成されたものと信じています」と述べた。しかしその一方で、「もし不快な思いをした人がいれば、もちろん、本当に申し訳なく思っています」と陳謝した。