エルサレム中東聖公会のエルサレム教区は8日、運営するパレスチナ自治区ガザ地区のアル・アハリ・アラブ病院が、イスラエル軍によって閉鎖に追い込まれたと発表した。7日夕方、病院近郊に対しドローン(無人機)による大規模攻撃があり、病院を含む地域が立入禁止区域に指定され、退避命令が出されたためだという。一方、イスラエル軍は一部の民間人に退避を求めたものの、病院については退避を求めていないと否定している。
エルサレム教区の声明(英語)によると、7日午後6時から同7時にかけて、アル・アハリ・アラブ病院に非常に近い場所に対し、ドローンによる大規模攻撃があった。その直後、イスラエル軍はこの地域を立入禁止区域に指定。病院を含め、地域内の全ての建物から直ちに退避するよう求めたという。
声明はその上で、「その結果、病院の敷地内に避難していた弱い立場にある全ての人々、スタッフ、全ての患者は、安全な病院の敷地から出なければならなくなりました。必然的に、負傷者や病人は大きな危険にさらされることになりました」と続けた。
エルサレム教区のホサム・ナウム大主教は声明で、「私たちの病院の閉鎖に可能な限り強い言葉で抗議します」と表明。「私たちはイスラエル軍に対し、医療と癒やしという神聖な務めを続けることを許可するよう訴えます。民間人や弱い立場にある全ての人々を標的にすることをやめ、全ての当事者が即時停戦に同意することを求めます」と訴えた。
世界の聖公会のトップであるカンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビーも、自身のX(旧ツイッター、英語)でエルサレム教区の声明を引用。ナウム大主教に連帯の意思を示すとともに、「病院は国際人道法に基づいて保護されなければなりません」として、アル・アハリ・アラブ病院の閉鎖に強い抗議の意を示した。
一方、イスラエル軍はロイター通信(英語)に対し、危険を最小限に抑えるため、ガザ地区の特定の地域の民間人に退避命令を出したものの、病院については退避の必要はないとパレスチナの保健当局に伝えていたとし、エルサレム教区の声明を否定した。
アル・アハリ・アラブ病院は、ガザ地区最古の病院の一つにして、唯一のキリスト教病院。昨年10月には、病院の敷地内で大規模な爆発が発生した。爆発直後に同地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」は、イスラエル軍の空爆だとし、約500人が死亡したと発表。それを世界中のメディアが伝えたことで、中東ではイスラエルに対する非難が相次ぎ、抗議デモが発生するなどした。
しかし、イスラエル軍は衛星画像や録音記録などを基に、爆発はパレスチナ側のロケット弾の誤爆によるものだとして、関与を否定。米国や英国、フランスなども、イスラエル側の主張を支持する見方を示していた。また、英BBCや米ニューヨーク・タイムズ紙も後に、爆発をイスラエル軍の空爆と断定的に伝えた初期報道について不適切であったことを認めている。