『鍵の本 指導教科書1』の中から、一部を翻訳して以下に紹介する。
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キリスト教の初期、信徒の象徴は魚でした。ギリシア語で[魚]という文字は IXΘΥS、小文字で ιχθυs で、「イエス、キリスト、神、子、救い主」の頭文字を取った字と重なり、信仰告白とし、迫害で隠れた壁に魚を描いて告白していました。その後、魚のシンボルは十字架に置き換えられました(※魚の絵は筆者の作)。
神の子イエスが私たちを罪と地獄から救うために十字架で死んでくださったので、イエスによる救いである十字架を誇りにしています。
十字架は私たちの人生の中心点です。十字架のサイン(十字を切る行為)は、身体的および精神的な活動(テーブル、仕事など)の前に行われます。正教会の十字架にはイエスの像はありません(復活したため)。
聖書に出てくる名前のほとんどはアラム語起源です。例えば、ガブリエル(神の人)、ミカエル(神の似姿、神に似た者)、マリア(いと高き者)、サラ(王女)などです。人名に使う場合、他の文化の名前よりもアラム語の名前を使用する方がよいでしょう。アラム語で名前のミドルネームを使う人もいます。
今日のアラム人には自分の国がありません。彼らは、トルコ、シリア、レバノン、ヨルダン、イラク、パレスチナなど、西アジアや中東の幾つかの国に住んでいます。多くのアラム人は西欧、カナダ、オーストラリア、ブラジル、南米、米国にも住んでいます。
私たちは異なる言語を話しますが、私たちの輝かしい言語(アラム語)を決して忘れてはなりません。私たち正教会は、祈りと賛美歌でアラム語(シリア語)を使用します。他にマロン派、カルデア人、シリア・カトリック教会、東方アッシリア教会など、アラム語で祈りをささげる教会はあります。これらの教会の信者もまた、自分たちをシリア人(スリョエ、シリアニー)であると認識しています。
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次のデザインは、筆者が今年3月にイスタンブールのシリアニー教会を訪問し、シリア語教師で教会役員の方から購入した最新の大型版シリア語旧約・新約聖書のもの。その中から抜粋して紹介する。
左のイラストは2020年版シリア語聖書の創世記1章からの転載。右の十字はシリア語賛美歌の表紙のイラスト。十字の四方に〇が各3個あり、3は神の三一、計12はイエスの使徒たちの数との説がある。シリア文字は「セェフェロォ(記録、書)」「ダァ バリィソォ(被造物の)」と読み、「被造物の書物」で創世記と訳す。ちなみに別の古いシリア語聖書には創世記を「初め・ベリシース」と表記するものもある。シリア語は右から左へと書き読みする。
読みはシリア語話者によって違いはあるが、私がトルコ・イスタンブールのシリアニー教会の教師から聞いて学んだところを記していく。シリア語には22の子音シリア文字と5つの母音があり、それを付けて発音し、意味を理解する。
[注意事項]初めのエノォは「私は」と訳し、後のエノォはオラフの下に横線が付くことで述語の役割となり、「です、ます」と訳す。これをエンクリティク用法という。
[注意事項]バナナのザイの上に二点ドットを付けることにより複数となる。この二点ドットをセヤメという。続いてメンの上の母音の違いにより「~から」となり、もう一つは「誰」の意味となり、母音記号はその意味の区別を表している。
(終わり)
※次回から「シリア語の世界」と題して新連載を予定しています。
※ 参考文献
『古代シリア語の世界』(イーグレープ、2023年)
『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』(改訂新装版、イーグレープ、2014年)
『景教碑の風景』(シリーズ「ふるさと春日井学」3、三恵社、2022年)
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