阪神宗教者の会(代表世話人・岩村義雄牧師)の例会が5月24日、オンラインで開催され、糸島聖書集会(福岡県糸島市)の木村公一牧師が「非暴力による平和創造」と題して語った。
木村牧師は、インドネシアの神学校で17年間教鞭を執った経験があり、2003年には「人間の盾」としてイラク戦争中のバグダッドに入ったことがある。また、ロシアがウクライナに対する軍事侵攻を開始した翌月の22年3月には、ウクライナと隣国ポーランドに渡り、約2週間支援活動に従事した。この日は、イスラエルのパレスチナ自治区ガザ地区に対する戦争と、現代のイスラエル建国をもたらしたユダヤ人による国民国家形成運動「シオニズム」に焦点を絞って話をした。
国連総会が、パレスチナを分割しユダヤ人とパレスチナ人の2国家建設を勧告する決議をしたのは1947年。現代のイスラエルはその翌48年に独立を宣言し、建国された。この現代のイスラエル建国を支えたのが、ユダヤ人を一つの民族と見なし、ユダヤ人による国民国家を形成しようとしたシオニズムと呼ばれるイデオロギーであり、運動だった。
このシオニズムの創始者とされるテオドール・ヘルツル(1860~1904)について、木村牧師は「政治的シオニズム」の立場にあったと紹介。ヘルツルらはユダヤ人国家の建設地として、必ずしもエルサレムのあるパレスチナにこだわらず、南アメリカのアルゼンチンやアフリカのウガンダも候補地として考えていた歴史があったことに言及した。
その上で、シオニズムの5つの形態として、政治的シオニズム以外に、「実践的労働シオニズム」「社会主義シオニズム」「宗教的シオニズム」「スピリチュアルシオニズム」があると説明した。
実践的労働シオニズムとしては、「シオンへの愛慕」と呼ばれるグループを例に挙げ、主にパレスチナ人たちが住んでいない土地を開発し、「キブツ」と呼ばれる共同体を築いていったことを話した。一方、労働を基本としながらも、パレスチナという土地を媒介として、民族解放と階級闘争を結び付けようとした人々もおり、これらは社会主義シオニズムに当たるという。
政治的シオニズム、実践的労働シオニズム、社会主義シオニズムはいずれも世俗的なシオニズムで、これらに抗うように、メシア論を媒介にユダヤ教とシオニズムを結び付けようとしたのが、宗教的シオニズムだった。木村牧師によると、イスラエルでは今、この宗教的シオニズムが徐々に勢力を伸ばしているという。
スピリチュアルシオニズムは、政治的シオニズムから距離を置くようになったユダヤ人哲学者のマルティン・ブーバー(1878~1965)が代表的人物で、パレスチナ人との共生を原則とする。しかし現在、政治勢力としては尻すぼみの状況にあるという。
木村牧師は、こうしたシオニズムのさまざまな形態を説明した上で、シオニズムという考えを初めに語り出したのは、ユダヤ人ではなくキリスト教の牧師だったと指摘。その牧師とは、『彼らは再びエルサレムに戻るか』を著した英国国教会のトーマス・ブライトマン(1562~1607)だった。ユダヤ人たちがエルサレムのあるパレスチナに戻り始めれば、キリストの再臨が近いしるしだとする解釈を提唱したという。ブライトマンは英国国教会の牧師だったが、この「キリスト教シオニズム」は主に、長老派やバプテスト派、メソジスト派に影響を与えていった。
木村牧師はこの他、シオニズムに対し否定的な見解を示す複数のユダヤ人学者や、シオニズムに抵抗するユダヤ教正統派の見方を紹介。イスラエルの元政府高官で政治学者のシュロモ・アビネリ(1933~2023)は、シオニズムについて、ユダヤ教的な世界観に基づくものではなく、近代欧州的教育の影響を受けた人々による世俗化した同化主義的運動と見ていることなどを話した。