ドイツ西部エッセンで、聖書の一節「イエス―わたしは道であり、真理であり、命である」(ヨハネ14:6)が書かれたステッカーを車に貼っていたことを理由に、タクシー運転手の男性が地元当局から罰金を科される事件があった。男性は罰金に異議を唱えており、個人の宗教表現と広告に関する法律を巡って幅広い議論が巻き起こっている。
キリスト教法曹団体「ADFインターナショナル」(英語)によると、ステッカーが違法な「宗教的広告」とみなされ罰金を科されたのは、タクシー運転手のジャリル・マシャリさん。昨年10月、最高で千ユーロ(約16万円)の罰金を科すとする通知を受けた。これに対しマシャリさんは、ステッカーを剥がすことを拒否したため、罰金と手数料の計88・5ユーロ(約1万4千円)を請求されることになった。
マシャリさんは、イランでイスラム教の家庭に生まれ育ったが、22年前にドイツに移住。その後、一人のキリスト教徒の女性との出会いがきっかけで、キリスト教に改宗している。
13歳の時、イランでバス事故に遭い、左下肢を失ったマシャリさんは、慢性的な痛みに悩まされ、33歳の時、痛みを和らげる治療を受けにドイツに渡ってきた。しかし、20回以上に及ぶ手術にもかかわらず、痛みが消えることはなく、自殺さえ考える状況だったという。そんな中、一人のキリスト教徒の女性が祈ってくれた後、痛みが止まる癒やしを経験。この経験が、キリスト教に改宗するきっかけになったという。
「イエスは私の人生を変えてくれた、誰にでも勧められる最高の存在です。だから、興味のある人に見てもらおうと、車にステッカーを貼っているのです。私はトラブルを起こしたいわけではないし、悪いことは何もしていません。誰もが自由に信仰を分かち合うことができる、この国に感謝しています。罰金は不当で、これからも不服を訴えていきたいと思います」
ドイツでは連邦憲法裁判所が1998年、タクシーにおける政治的・宗教的広告を禁止する判決を出しており、エッセンの地元当局は、マシャリさんのステッカーも禁止された広告に当たると主張している。しかし、マシャリさんと彼の支持者らはこの解釈に異議を唱え、ステッカーは個人的な信仰を表す権利の範囲内のものだと主張している。
ADFインターナショナルのリディア・リーダー弁護士は、次のように述べている。
「自由な社会では、政府は平和的な信仰表現を封じるべきではありません。マシャリさんの行為は、信教の自由という基本的人権により保護されています。信教の自由には、自分の深く抱いている信念を他者と共有する権利も含まれます。国家はこの自由を不当に妨害することを控えなければなりません」
地元の「ラジオ・エッセン」(ドイツ語)によると、マシャリさんが命令に従わない場合、罰金は最大1万ユーロ(約160万円)にまで引き上げられる可能性がある。