イエスは言われた。「まず、子供たちに十分食べさせなければならない。子供たちのパンを取って、小犬にやってはいけない。」(新約聖書・マルコによる福音書7章27節)
「保育園落ちた日本死ね!!!」から8年
保育園落ちた日本死ね!!!
何なんだよ日本。
一億総活躍社会じゃねーのかよ。
昨日見事に保育園落ちたわ。
どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。
子供を産んで子育てして社会に出て働いて税金納めてやるって言ってるのに日本は何が不満なんだ?
何が少子化だよクソ。
子供産んだはいいけど希望通りに保育園に預けるのほぼ無理だからwって言ってて子供産むやつなんかいねーよ。
不倫してもいいし賄賂受け取るのもどうでもいいから保育園増やせよ。(後略)(保育園落ちた人のブログより)
今から8年前、2016年2月15日に掲載された「保育園落ちた日本死ね!!!」というブログ記事が話題になりました。しかしこの8年間、待機児童問題に端を発した子育て支援事業は、保護者の要望を満たすことだけに焦点が当てられながら、それが悪用されてきたように感じます。何よりも、虐待や少子化を食い止める観点は全く的外れで、さらには本当に保育を必要とする――以前であれば「保育に欠ける」と言われた――状態の子を受け止める発想に欠け、いつの間にか、感覚的にも制度的にも保育事業は福祉事業とはかけ離れたものになってしまった感覚が私にはあります。
少子化のメカニズムを考える
先日、「2023年の出生者は推定72万余」という内容の記事が出てきました。この数字を使って、「20年後にこの赤ちゃんたちが全て子どもを産んだら」と考えてみましょう。当然ながら、世の中には男女という身体的な区分があります。ですから、72万人のうち子どもを産めるのは36万人となります。女性として生まれた人が全員妊娠したという想定で考えても、大体の女性は1人につき1人を妊娠するのが通例ですから、単純に考えれば、36万人しか生まれないことになります。20年後に相当な努力をして、女性全員が1人妊娠したとしてもこの数なのです。そして、この36万人は男女18万人ずつということになりますので、もし仮に、この子たち全てが結婚しても18万組の夫婦しか生まれないのです。
園児不足は容易に想像できたこと
前述の通り、これからは加速度的に少子化が進んでいくのです。その証拠に、私が知る保育施設では、既に園児の確保に困難を来しています。実際、来年4月からの入園申し込みが1人もいないという状態の施設もあるそうです。時期の到来に差はあれど、待機児童対策で乱立した保育施設は淘汰の時期に入ります。
次の表は、実在する保育施設の2018年の研修時に資料として出した園児数の減少予想です。2018年時点で109人いた園児数が2023年には52人になると予測しました。悲観的過ぎかと思っていましたが、先日、実際にこのような数字の推移を示したと伺い、自分でも驚いた次第です。
2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
---|---|---|---|---|---|---|
5歳児 | 26 | 18 | 15 | 22 | 16 | 8 |
4歳児 | 18 | 15 | 22 | 16 | 8 | 8 |
3歳児 | 15 | 22 | 16 | 8 | 8 | 8 |
2歳児 | 22 | 16 | 8 | 8 | 8 | 8 |
1歳児 | 16 | 8 | 8 | 8 | 8 | 8 |
0歳児 | 12 | 12 | 12 | 12 | 12 | 12 |
合計 | 109 | 91 | 81 | 74 | 60 | 52 |
崩壊する保育現場
実は、保育施設には少子化を乗り越えられない壁が存在します。それは、配置基準(保育士1人当たりが受け持つ園児の数)に基づく壁です。
現在の配置基準は、0歳児が3人、1歳児・2歳児が6人、3歳児が20人、4歳児・5歳児が30人となっています。このうち4歳児・5歳児については、2024年度からは25人となります。前述の施設のように0歳児クラスに12人いる場合、保育士は4人が必要になります。0歳児の受け入れ数を増やす場合は、園児3人当たり1人の割合で保育士を増やす必要がありますので、簡単なことではありません。
そして、もし仮に頑張って0歳児を12人確保したとしても、少子化が進む地域では、それ以降のクラスの人数が増えることはほとんど見込めません。その上、0歳児クラスの12人全員が次の1歳児クラスに上がるわけではなく、約半数しか上がらないのです。
どういうことかというと、保育施設では4月1日時点で0歳の子を0歳児として扱います。4月1日時点で満年齢が1歳を迎えるまでは0歳児クラスなのです。これが何を意味しているかというと、0歳児は生まれてから最長で2年弱の間、0歳児クラスなのです。例えば、2023年4月2日生まれの子が、2023年度中に入園すると、もちろん0歳児クラスに入りますが、2024年4月1日時点でもまだ0歳ですので、2024年度も再び0歳児クラスに入ることになるのです。そうすると、0歳児クラスに12人を確保していても、その約半数の子どもは次年度も0歳児クラスに残ってしまうことになります。
前述の施設がある地域は、少子化の流れの中、15ある保育施設に対して、出生者は140人程度しかいません。そうすると、均等に分けても1施設当たり10人弱です。無論、出生者全員を均等割するわけですから、1歳児や2歳児になってから利用する子をどんなに頑張って集めても、各クラス1、2人程度しか増えないでしょう。つまり、0歳児クラスで受け入れた数の半数前後が、1歳児以降のクラスの園児数になります。
そして、この配置基準に基づく壁は、もう一つのことを意味します。先の表では、2023年になれば、1歳児~5歳児クラスの園児数はそれぞれ8人になるとしています。しかし、配置基準に従えば、3歳児以降は保育士1人当たり20~30人の園児を受け持つことができるのです。それなのに、保育士1人が8人の園児しか受け持たないというのは、高コストなのです。
保育施設の保育料は、定員に基づいて算定されます。定員30人の5歳児クラスであれば、30人預かることを前提にして保育料が算定され、1カ月当たり約150万円の収入を見込めます。しかし、定員30人に対し8人の園児しかいなければ、約40万円にしかならない計算になります。さらに、保育施設は週6日12時間営業が基本ですから、代替職員も必要になります。1カ月当たり約40万円では、人件費程度しか捻出できないことになってしまいます。
2024年度から配置基準が見直され、4歳児・5歳児は30人から25人になることになりました。しかし、これはもはや配置基準の園児数を集められる保育施設がなくなることを見越した改定でしかないことが分かります。
30人から25人に変更するということは、5歳児クラスであれば、定員通りだった場合に見込まれる収入約150万円の頭割りの数を30から25に変更することに過ぎません。つまり、1人当たり約5万円だったものが約6万円になるのですから、8人の場合は約40万円から約48万円になるだけの話です。
前述の保育施設で考えてみましょう。2008年の5歳児クラスは26人ですから、1カ月当たり約130万円の収入があると考えられます。それが2023年には8人となるのですから、定員削減をして保育料を変更しない限り、約40万円になってしまうのです。配置基準が改定されても約48万円ですから、焼け石に水というものです。
少子化に苦しむ地域では、自治体から出産情報を得ては紙オムツを段ボール1箱持って出産家庭を訪問し、園児のリクルートに走っているということを、10年くらい前に聞いたことがあります。これからはそういう時代になるのです。(続く)
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