英国国教会の総本山であるカンタベリー大聖堂で最近、「サイレントディスコ」と呼ばれる若者向けのイベントが行われ、抗議や疑問の声が相次いでいる。イベントは他の大聖堂でも予定されており、中止を求める嘆願書には2500人以上が署名する事態となっている。
カンタベリー大聖堂は、英イングランド南東部カンタベリーにある大聖堂。イングランドにキリスト教を布教した聖アウグスティヌスによって、597年に建てられたとされている。世界各国・地域の聖公会で構成される「アングリカン・コミュニオン」(全世界聖公会)の世界的な「母教会」として、また英国国教会のトップであるカンタベリー大主教の主教座として、多くの巡礼者が訪れる場所となっている。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産にも登録されている。
サイレントディスコは、参加者がワイヤレスヘッドホンで音楽を聞き、それに合わせて踊るイベント。今回は1990年代のポップミュージックがテーマとされ、会場ではアルコールも販売された。イベントが開催された時間帯には、大聖堂の外で黙祷をささげて抗議するキリスト教徒たちもいたという。
しかし、こうした抗議の声にもかかわらず、リーズ、セント・オールバンズ、コベントリー、シェフィールド、マンチェスターなど、さらに多くの大聖堂で開催が予定されている。このうち、マンチェスター大聖堂では5月にサイレントディスコが開催される予定だが、2月末には「パンクロック・クラブ・ナイト」という別のイベントも予定されている。
オンライン署名サイト「Change.org」に掲載された、イベントに反対する嘆願書(英語)には、23日時点で2500人以上が署名している。
嘆願書は、大聖堂の聖職者たちが、神聖な場所を冒瀆(ぼうとく)していると非難し、サイレントディスコが開かれるべき場所は、大聖堂ではなくナイトクラブだと述べている。その上で、キリスト教徒に反対の声を上げるよう呼びかけ、また聖職者たちに大聖堂を祈りの家とするよう呼びかけている。
「聖職者たちにその誤りを示し、人々の心に神聖な場所への畏敬の念を再び呼び起こすために、嘆願と祈りをもって抵抗しない限り、この冒瀆は止まりません」
「私たちは、歴史的な聖なる場所が冒瀆されること、特にナイトクラブとして利用されることに反対します。親愛なる英国国教会の聖職者の皆さん、ディスコを止め、大聖堂を再び祈りの場としてください」
このイベントに疑問を呈する声は他にもある。
英福音派アドボカシー団体「クリスチャンコンサーン」は、X(旧ツイッター、英語)に次のように投稿した。
「カンタベリー大聖堂の目的が、若くて純粋な礼拝者を引きつけることであるならば、サイレントディスコは絶対にふさわしい方法ではありません」
Fantastic atmosphere at last night’s Silent Disco! Thanks to everyone who joined us.
We’re looking forward to welcoming everyone this evening!
We'll be sharing more pictures later pic.twitter.com/zowUn1UErX
— Canterbury Cathedral (@CburyCathedral) 2024年2月9日
マンチェスター近郊のオールダム・ベテル教会を牧会し、ブロガーとしても活動するスティーブ・ニール牧師は、教会が福音を分かち合う意図を持たずに、その建物を人々で埋め尽くすことに意味があるのかと述べ、自身のブログ(英語)で疑問を呈した。
「私は、このような光景の中に、私たちが伝道的価値のある何かを成し遂げたと信じる理由を認めることはできません」
「単に『(教会に)来てもらう』ことは、福音のために何かをすることとは違います。単に『来てもらう』だけでは、誰をもキリストに近づけてはいません。『来てもらう』ことそれ自体では、本当に何も達成されてはいないのです」
キリスト教徒のコメンテーターであるエイドリアン・ヒルトン氏は、自身のX(英語)に次のように投稿した。
「カンタベリー大聖堂の首席司祭と参事会は、この『サイレントディスコ』を『神の家にふさわしい』(教会法F16号)活動であると見なしています。私は宣教について広い視野を持っていますが、(大聖堂で殉教した)聖トマス・ベケットが眠る大聖堂の『神聖さに反する』(教会法F15号)冒瀆的な行為に傾いていると思います」