昨年5月にローマ教皇フランシスコと面会した際、イエス・キリストに関する映画を製作すると明らかにしていたマーティン・スコセッシ監督が、遠藤周作の小説『イエスの生涯』(1973年)を原作にして製作を進めていることが分かった。米ロサンゼルス・タイムズ紙に掲載された8日付の記事(英語)で明らかになった。
記事は、「マーティン・スコセッシにとって、全ては赦(ゆる)し」と題したもの。同紙で映画やテレビ番組を担当し、同紙が受賞シーズンに発行する芸能誌「ザ・エンベロップ」でコラムを執筆するグレン・ウィップ氏が、スコセッシ監督へのインタビューなどを基に書いている。
記事によると、映画評論家で、スコセッシ監督との共同監督作品を複数手がけているケント・ジョーンズ氏と協力し、脚本は既に執筆を終えているという。スコセッシ監督は、まだ「インスピレーションの中を泳いでいる」状態だとも話しているが、2024年後半にも撮影が始まる予定。
作品の舞台は主に現代になるという。しかし、特定の時代にしばられることは避け、時代を超えた作品にしたいとスコセッシ監督は話している。上映時間は80分程度を想定しており、キリスト教への改宗を促すものではなく、根源的なものを探る中で、イエス・キリストの核となる教えに焦点を当てるという。
「組織化された宗教にまつわるネガティブな重荷を取り除き、(イエスの教えを)より親しみやすくする新しい方法を見つけようとしているのです」とスコセッシ監督は話す。
インタビューの中でスコセッシ監督が「宗教」という言葉を避けているように思うと話したウィップ氏の質問には、次のように答えている。
「今は、あなたが言った『宗教』という言葉を口にすると、みんなが身構えてしまいます。いろいろな失敗があったからです。しかし、それで最初の衝動が間違えていたということには必ずしもなりません。一度立ち返ってみましょう。ただ、それを考えてみましょう。あなたは拒否するかもしれません。でも、拒否しているときでさえ、それはあなたの人生に変化をもたらしているかもしれないのです。頭ごなしに否定しないでほしいのです。これが、私が考えていることの全てです。これは、あと数日で81歳になる人間として言っていることです。私が言っていることが分かりますよね?」
スコセッシ監督は昨年11月17日で81歳になっており、インタビューはその数日前に行われたとみられる。
スコセッシ監督は2016年、遠藤周作の代表作『沈黙』を原作にした「沈黙—サイレンス—」を製作しており、遠藤作品の映画化はこれで2作目となる。
厳格なカトリックのイタリア系移民の父母の下、米ニューヨークで生まれ育ったスコセッシ監督は、少年時代にはカトリックの司祭を目指していた時期もあったという。一方の遠藤も、カトリックの家系に生まれ、12歳で受洗。『沈黙』や『イエスの生涯』のほか、『侍』や『深い河』など、キリスト教を主題にした作品を多く執筆している。