聖書を引用して同性愛を罪と表現する内容をSNSに投稿したことなどで起訴されたフィンランドのパイビ・ラサネン元内相らの控訴審判決が14日、同国のヘルシンキ控訴裁判所であった。控訴裁の判事3人は、ラサネン氏らを無罪とした1審判決を全員一致で支持し、検察の控訴を棄却した。
ラサネン氏らの代理人を務めるキリスト教法曹団体「ADFインターナショナル」(英語)によると、1審のヘルシンキ地裁は昨年3月、「表現の自由に干渉し、それを制限するためには、それを上回る重要性のある社会的理由がなければならない」と指摘。ラサネン氏らの事案においてはそのような正当性は認められないと結論付け、さらに「聖書の概念を解釈するのは地裁ではない」などとする判決を出していた。ヘルシンキ控訴裁は今回、この地裁の判決について「変更する理由はない」とした。
フィンランドの国教の一つであるフィンランド福音ルーテル教会(ELCF)の信徒であるラサネン氏は2019年、ELCFがLGBTQ(性的少数者)への連帯を示す地元のプライドイベントの公式パートナーとなったことを疑問視し、同性愛行為について言及している新約聖書のローマ信徒への手紙1章24~27節の写真を添えて、「教会の教義的基盤である聖書が、恥や罪深いと定めることと、それを誇りの対象として持ち上げることと、どうして両立し得るのでしょうか」などと述べる投稿を複数のSNSで行った。
フィンランドの警察当局は、この投稿を同性愛者に対する不当な憎悪や嫌悪をあおるものだとして問題視。ラサネン氏は、04年に執筆した教会向け冊子の内容と、19年に放送されたラジオの討論番組での発言も併せ、フィンランド刑法の「戦争犯罪と人道に対する罪」に含まれる「少数派に対する扇動」を行ったとして、21年に起訴された。この他、ラサネン氏の冊子を出版したフィンランド福音ルーテル宣教教区(ELMDF)のユハナ・ポージョラ監督も同じ罪で起訴された。
控訴裁の判決後、ラサネン氏は「本当に安心しました。控訴裁は、全ての人の言論の自由の権利を認めた地裁の判決を完全に支持しました」と述べ、次のように語った。
「聖書の一節を投稿したり、キリスト教の観点から公の議論に参加したりすることは犯罪ではありません。私の信念を表明したことを理由に、私を起訴するという一連の試みは、非常に試練の多い4年間をもたらしましたが、私の希望は、この結果が言論の自由という人権を守るための重要な先例となることです。他の無実の人々が、自分の信念を表明しただけで同じ苦しみを経験することがないことを心から願っています」
検察は6万ユーロ(約980万円)を超える訴訟費用の支払いも命じられており、最高裁に上告する可能性もある。上訴期限は来年1月15日。
ラサネン氏は1995年に当選して以来、30年近く国会議員を務めており、2004年から15年まではキリスト教民主党の党首、11年から15年までは内相を務めた。医師でもあり、ルーテル派の牧師である夫との間には5人の子どもがおり、現在11人の孫がいる。