米首都ワシントンに拠点を置く迫害監視団体「国際キリスト教コンサーン」(ICC)はこのほど、キリスト教徒をその信仰の故に最も迫害している10カ国と6つの組織、また5人の個人を取り上げた最新の年次報告書(英語)を発表した。
ナイジェリア
報告書はまず、キリスト教徒に対する迫害が激しい10カ国の最初の国として、ナイジェリアを挙げた。迫害の事例としては、同国中部カドゥナ州のカトリック神学校が襲撃され、若い神学生が殺害された事件など、イスラム過激派によるとみられる数々の「恐ろしい残虐行為」を列挙。ICCの調査によれば、3月4日から7月6日までの約4カ月間だけで55回の襲撃があり、549人のキリスト教徒が殺害された。
一方、報告書は、ナイジェリア政府はこれらの暴力行為を見て見ぬふりをし、「現在進行中の大量虐殺を教唆」さえしていると非難し、次のように述べている。
「ナイジェリアは数十年にわたる暴力に引き裂かれた国である。大規模で組織化されたテロ集団から、小規模でバラバラの共同民兵まで、ナイジェリアでは暴力がまん延している。キリスト教徒が多数を占める南部とイスラム教徒が多数を占める北部の中間に位置するミドルベルト地域で暴力の多くが生み出されている。そこでは、共同体同士が資源、民族的反感、宗教を巡って日々衝突している。キリスト教徒は殺害されたり、誘拐されたりする割合が不均衡に高く、そのためこの国に住むのは危険となっている」
北朝鮮
報告書が次に挙げたのは北朝鮮。北朝鮮には推定40万人のキリスト教徒がいるとされているが、秘密裏に信仰を実践することを余儀なくされており、さもなければ投獄や拷問、あるいは処刑の危険さえあるという。また、逮捕者だけでなく、その関係者もまた処罰されるという「悪夢のような状況」がある。そのため、北朝鮮でキリスト教を信仰することは「信じられないほど危険」なものとなっており、多くの人が死の危険を犯してまで逃げ出そうとしていると記している。
悲惨な一事例として、報告書は、今年初めに「聖書が自宅で発見されたことにより、2歳児とその両親が終身刑を宣告された」ことを紹介。北朝鮮のキリスト教徒が置かれている厳しい状況について、次のように述べた。
「金正恩政権は一貫して、政治的反体制派と同様、国家と体制の安定を脅かす代表的存在であるとしてキリスト教徒を迫害してきた。最高指導者の金正恩を神格化する国家の主体(チュチェ)思想の下で、平壌は依然として国家による迫害の頂点にある」
「キリスト教の実践は、最高指導者に対する忠誠心からの逸脱であり、米国帝国主義の影響下にあると見なされるようになった。この妄想は、北朝鮮が初代指導者である金日成に権力を一元化しようとする中、国家として早い時期に始まった。そのため、キリスト教徒であることはしばしば政治犯罪と見なされ、投獄、拷問、処刑などの厳しい刑罰が科されている」
インド
報告書は3番目にインドを取り上げ、「過激な宗教民族主義の高まりが、キリスト教徒にとって重大な脅威となっている。暴力事件は激化し、ナレンドラ・モディ首相の無策が状況を悪化させている」としている。
インドには2600万人のキリスト教徒がいるとされるが、今年4月に中国を抜き、世界一の人口大国となったインドには14億人を超える人がおり、キリスト教徒は人口の2パーセント強と少数派。報告書によると、キリスト教徒に対する暴力事件は今年も「記録的なペース」で続いており、昨年の600件に匹敵するか、それを上回る勢いだという。今年は特に同国北東部マニプール州のキリスト教徒が標的にされ、数十人が死亡し、数百の教会が破壊された。報告書は、次のように述べている。
「人権監視員たちは、インド人キリスト教徒への暴力事件の『規模』が拡大していることに気付いている。22年末から23年にかけてマニプール州と同国中東部のチャッティースガル州で起きた大規模暴力事件は、過激なヒンズー民族主義を抑制しなければ、インドのキリスト教徒に将来どのような事態が起こり得るか、背筋が凍るような例を示している」
報告書はこの他、キリスト教徒に対する迫害が激しい国として、イラン、中国、パキスタン、エリトリア、アルジェリア、インドネシア、アゼルバイジャンの7カ国を掲載。キリスト教徒を最も迫害している組織としては、民主同盟軍(ADF、コンゴ民主共和国)、アルシャバブ(ソマリア)、フラニ族の過激派(西アフリカ各国)、サヘル地帯の複数のイスラム過激派組織、タリバン(アフガニスタン)、タッマドー(ミャンマー国軍)の6つを挙げた。また個人では、ヨギ・アディツアナス(インド北部ウッタルプラデーシュ州首相)、イサイアス・アフェウェルキ(エリトリア大統領)、レジェプ・タイップ・エルドアン(トルコ大統領)、習近平(中国国家主席)、金正恩(北朝鮮最高指導者)の5人を取り上げ詳述している。
迫害下のキリスト教徒のために声を上げるべき
ICCのジェフ・キング会長は、キリスト教徒に対する世界的な迫害の状況について、もっと声を上げるべきだと主張している。キング氏は、今回の報告書の序文に次のように書いている。
「宗教的迫害は、そのほとんどが隠れた危機です。大衆は、それが『どこかに』存在することはある程度知っているかもしれませんが、実際に例を挙げることは難しいでしょう」
「残念ながら、世界中で2億人から3億人ものキリスト教徒が現在、迫害に苦しんでいると推定されています。私は20年以上、この標的とされているグループに奉仕してきましたが、なぜ迫害される者のための広範な反対や怒りの声がないのか、いまだに不思議に思っています。私たちの兄弟姉妹は、イエスの信者であるというだけで、世界中で殺害されたり、投獄されたり、拷問を受けたりしているのです」
「ICCでの20年の舵取りを経た今、私は世界の片隅で信仰を共にする、これら迫害されたキリスト教徒の勇気に励まされています。これらの信者たちは、想像を絶する痛みに耐えながら信仰を持ち続け、さらには信仰を発展させているのです。彼らは霊的な推進力であり、中国、イラン、北朝鮮のような場所で拡大し続ける教会なのです」