世界平和統一家庭連合(旧統一協会)会長の田中富広氏と改革推進本部長の勅使河原(てしがわら)秀行氏が7日、東京都渋谷区の同協会本部で記者会見を開いた。日本における同協会トップの田中氏が会見を開くのは、昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件直後に会見を開いて以来約1年4カ月ぶり。
田中氏は銃撃事件後、同協会に対し元信者や現役信者から苦情や相談、献金の返金請求が数多く寄せられていることを明かすとともに、いわゆる「宗教2世」の問題にも触れ、「私たちの不足さ故に心痛めておられる皆様、つらい思いをしてこられた2世の皆様、国民の皆様に、改めて心からお詫びいたします」と述べた。
一方、同協会に対し宗教法人法に基づく解散命令を請求した文部科学省の措置については、「信教の自由、法の支配の観点から到底受け入れることはできません」と述べ、法的に争う考えを改めて表明。2009年に発表したコンプライアンス宣言に基づく改革を今後も進め、法令遵守に務めるとした。
田中氏によると、同協会は銃撃事件後の昨年7月から今年10月までの約1年4カ月間にあった献金の返金請求に対し、664件約44億円の返金に応じたという。この664件については、田中氏自身も報告全てに目を通しているとし、事案ごとに丁寧に対応していると強調。しかしその一方で、返金請求全てに応じられるわけではないとも話した。
被害者救済を目的に同協会の財産保全に向けた議論が国会で行われていることに関しては、資金を海外移転する考えはないと説明。現在は支援を目的とした海外送金は行っておらず、銀行からも確実な書類がある場合を除き、海外送金はできないと指導を受けていると話した。その上で、国が特別措置として制度を設けるなどすれば、解散命令請求に関する裁判が確定するまで、国に60億円から最大100億円の供託金を預ける方針を示した。
一方、田中氏が述べた「お詫び」は「被害者への謝罪という認識か」と問う記者からの質問に対しては、「被害者、被害金額も不明確」だと主張。「信仰を失うことを通して、(献金の)返金請求をしたら即被害という結論は距離があり過ぎる。返金請求全てが被害であるということは受け入れ難い」「被害者が特定されて初めて謝罪という言葉が使われる」などと述べ、「被害者」や「謝罪」という言葉を自ら使用することはしなかった。
田中氏の会長としての進退については、改革に集中することが現在の役員会の総意だとし、すぐに退任する考えは示さなかった。その一方で「機が熟してきているようにも感じている」と述べ、「その時に至れば、何らかの形で皆様にご報告できればと思っている」と話した。
供託金として示した60億円から最大100億円という金額については、現在同協会が把握している献金の返金請求の大半が、同協会の被害対策弁護団が集団交渉で求めている124人分計約39億円であるとし、これを念頭に決めたと説明した。
一方、田中氏は記者からの質問に答える形で、同協会の職員や信者らが受けている差別的な扱いについても語った。田中氏によると、同協会に関する報道で扱われた写真に写っていたことを理由に会社を退職させられたり、同協会に関係する韓国の大学出身者が内定を取り消されたり、病院で受診を断られたりする事例があったという。また、自殺未遂や自殺の事例も出ているとし、嫌がらせや脅迫の電話、殺人予告は2万件を超えると言い、刃物や不審物が送られてくることもあるなどと話した。
NHKや共同通信によると、7日には同協会の会見を受け、立憲民主党や共産党などの野党が国会で会合を開催。最大100億円の供託金を預ける意向を示したことについて、出席した同協会の被害者らは、「財産保全法の成立を阻止し、財産隠しを加速させる目的がうかがわれ、怒りを禁じ得ない」「100億円は不当であり、潜在的な被害額は桁違いに大きい」などと批判した。また、同じく会合に出席した文化庁の担当者は、一般論とした上で、解散命令を請求されている宗教法人からの提案に対応することは難しいとする考えを示した。