朝鮮人被爆者の実態調査などに取り組み、10年以上にわたって長崎市議を務めた平和活動家で牧師の岡正治氏(1919~94)が生前、性加害を行っていたことが明らかになった。岡氏の名前を冠していた「岡まさはる記念長崎平和資料館」(長崎市)は10月、しばらくの間休館し、名称変更や展示の見直しを含む対応を行うとホームページで発表した。
性加害に関する情報は、被害者の女性が2020年、インターネット上で一部を公表。資料館の関係者もこの情報を把握していたが、事実確認などの対応は当時、取らなかったという。その後、関係者内から対応を求める声が上がり、今年9月末になって女性に対し文章で謝罪した。
資料館は、対応の遅れについて、「背景には、権威ある男性を疑わず被害者の証言を重大に捉えなかった、自分たちの内面化された性差別意識やジェンダーバイアスがあった、と自覚しなければならないと思います」と述べ、「当資料館はいかなる性暴力も容認しません」と表明した。
当時20代の地元テレビ局の記者だった女性は1994年、取材の一環で他社の記者数人と岡氏の自宅を訪問し、夕食会に参加した。他社の記者が会社からの呼び出しで退席し、一人残ったところで、下着姿になった岡氏から同意なく抱きつかれるなどの被害に遭ったという。
女性は、「本当に怖かった。聖職者であり、平和と人権の活動家で、75歳を超えた元市議で、人格者として記者たちから尊敬されていたおじいさんだ。何を信じていいのか分からなくなった」と当時の心情をつづっている。
岡氏はその後、謝罪の申し出や取材情報の提供などを示唆して女性を呼び出し、2度目の性加害も行ったという。その年、岡氏は病気のため死去するが、別の取材中に地元の警察幹部からも性被害を受けていた女性は、岡氏による性加害が追い打ちとなり、その後記者を辞職することになった。
女性は、被害を公表した経緯について、「ソーシャルグッド運動内で起こった性暴力が隠蔽(いんぺい)され、加害者がメディアで持ち上げられることが続いていました。同時に、キリスト教の牧師や神父による性暴力が明らかになってきた時期だったので、これを黙っておくより伝えた方がよいと思いました」と説明。「性暴力がどこでも起きていることを考えてほしい。起こさないようにするにはどうすべきか考えてほしい。起きてしまったときには、2次加害をしないように考えてほしい」と訴えた。
一方、女性に対し加害者サイドが謝罪したのは今回が初めてで、「報道現場やソーシャルグッド運動内で起きる性暴力や性搾取が少しでも減るきっかけになることを願います。とても画期的な前代未聞の動きです」と述べ、資料館の対応を評価した。
岡氏が所属していた日本福音ルーテル教会は本紙の取材に対し、「資料館が表明されていたように、いかなる性暴力も容認しないというのが教会の立場」とし、現在、正式に表明する準備を進めていると話した。