新型コロナウイルスの感染拡大を受けたロックダウン期間中に行われた宗教団体に対する強権的な措置への抗議として、屋外で賛美歌を歌って抗議の意思を示していたクリスチャン数人が逮捕された事件を巡る訴訟で、米北西部アイダホ州モスコー市は、計30万ドル(約4300万円)の和解金を支払うことに合意した。
この訴訟は、2020年9月23日にモスコー市庁舎の駐車場で、抗議の意味を込めて開かれた集会「詩編を歌う」に関連して逮捕されたガブリエル・レンチ、シーン・ボーネット、レイチェル・ボーネットの各氏が、同市と市職員数人を相手取って起こしたもの。レンチ氏が執事を務める同市の教会「クライストチャーチ」が主催したこの集会は、全米の注目を集め、当時のドナルド・トランプ大統領もツイッターで言及するなどしていた。
和解金の支払いに合意したのは、モスコー市の賠償責任保険事業者である「アイダホ郡リスク管理プログラム」(ICRMP)が、訴訟の長期化を回避するためには金銭的和解が最善と判断したため。同市の報道発表(7月14日付、英語)によると、和解の成立により、ICRMPが30万ドルを支払う代わりに、同市と市職員らに対する訴えは棄却され、全ての責任が免除される。
アイダホ大学に通うために2002年にモスコー市に引っ越してきたレンチ氏は、声明(英語)を発表し、和解金の支払いなどに税金が当てられることに懸念を示しながらも、この決定に安堵(あんど)の声を上げた。
「この恥ずべき武勇伝が終わったことは喜ばしいことですが、残念なことに市の納税者には高い負担となりました。調停による和解金の支払いを含め、市はこの争いに約50万ドル(約7100万円)の財源を費やしたと推定しています」
レンチ氏はまた、モスコー市と「リベラルカルト」が、レンチ氏の教会とクリスチャンのコミュニティーに対し、一貫して宗教差別を行っていると批判。高校生らが市内の電柱に言論の自由を訴えるステッカーを貼り、レンチ氏の逮捕に抗議した事件に対する同市の対応を批判し、高校生らは軽犯罪で起訴された一方、同様の行為を行った他の人々は罰せられなかったと主張した。
その一方で事件を巡っては、集会の参加者を逮捕したモスコー市警の対応を支持する人や、集会は非合法で危険な行動だとクライストチャーチを批判する人もいた。これらに対しクライストチャーチは、集会は憲法で保障された表現と結社の自由を行使したものであり、警察は、逮捕はおろか、参加者に身分証明書の提示を求める根拠すら欠いていたと主張していた。
アイダホ州連邦地方裁のモリソン・イングランド判事は2月、和解協議を命じる命令(英語)の中で、「原告(レンチ氏ら)は不当に逮捕され、市は自らの条例の解釈を明らかに誤り、その結果、市は条例の適用について警官らに誤った助言を与えており、原告の損害賠償請求はこれまでのところ妥当である」としていた。
■ ガブリエル・レンチ氏が逮捕された際の様子