現存するものとしては、最も欠損の少ない世界最古のヘブライ語聖書とされる「サスーン写本」が17日、米ニューヨークで競売にかけられ、3812万6千ドル(約52億4500万円)で落札された。写本としては、史上最高額だという。
落札者は、米国の元駐ルーマニア大使であるアルフレッド・モーゼズ氏(93)。ユダヤ系のJNS通信(英語)によると、モーゼズ氏は米首都ワシントンのジョージタウン地区のユダヤ人共同体の活動的なメンバー。
モーゼズ氏は、イスラエル最大の都市テルアビブにある「ユダヤ人博物館」(ANU)を支援する米非営利団体「ユダヤ人博物館米国友の会」の代理として落札。落札したサスーン写本は、ANUに遺贈する。モーゼズ氏は、ANUの国際理事会で議長の立場にある。
競売を行った米サザビーズ社によると、入札者はモーゼズ氏の他にもう一人いたが、入札開始から約4分で落札が決まった。
米ニューヨーク・タイムズ紙(英語)によると、モーゼズ氏は落札後に発表した声明で、「ヘブライ語聖書は、歴史上最も影響力のあるものであり、西洋文明の基盤を構成するものです」とコメント。「私は、この聖書がユダヤ人のものであることを知り、喜びを感じています。サスーン写本の歴史的重要性を認識し、それを世界の全ての人々がアクセス可能な場所に置くことが私の使命でした」と語った。
サスーン写本は、9世紀後半から10世紀初頭に作成されたと考えられており、ヘブライ語聖書全24巻を含む単一の写本としては、世界最古とされる。サザビーズ社によると、全24巻中、欠損しているのは12葉のみ。欠損のない完全体のヘブライ語聖書として世界最古とされる「レニングラード写本」は1008年の作成で、サスーン写本はそれよりも約1世紀古い。
名称は、ユダヤ教古文書収集家のデービッド・ソロモン・サスーン氏(1880~1942)に由来する。サスーン氏は1929年に入手し、その個人コレクションの中でも最も貴重な古文書の一つだった。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、1989年からはスイス人資本家のジャッキー・サフラ氏が所有し、一部の学者しか目にすることはなかった。
サスーン写本が競売にかけられることが発表されたのは今年2月。予想落札価格は、3千万~5千万ドル(約41億3千~68億8千万円)で、歴史文書として史上最高額で落札される可能性も指摘されていた。
これまでに高額で落札された歴史文書としては、米マイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツ氏が1994年に3080万ドル(約42億4千万円)で落札したレオナルド・ダ・ビンチの手稿や、米資産家のケン・グリフィン氏が2021年に4320万ドル(約59億4千万円)で落札した米国憲法の初版などがある。
ヘブライ語聖書は、トーラー(律法)5巻、ネビイーム(預言者)8巻、ケトゥビーム(諸書)11巻の計24巻で構成される。
トーラーは、いわゆる「モーセ5書」で、創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記。ネビイームは、ヨシュア記、士師記、サムエル記、列王記、イザヤ書、エレミヤ書、エゼキエル書に、12小預言書が1巻でまとめられている。ケトゥビームは、詩編やヨブ記、雅歌、ダニエル書などの旧約聖書のその他の書。
サスーン写本で欠損しているのは、創世記の最初の10章。