英国で難病の遺伝を防ぐことを目的とした体外受精が行われ、3人に由来するDNAを持つ同国初の赤ちゃんが誕生した。
「ミトコンドリア提供治療」(MDT)や「ミトコンドリア置換療法」(MRT)と呼ばれるこの技術は、細胞内小器官であるミトコンドリアに異常がある女性の受精卵の核を、核を取り除いた健康なドナーの卵子に移植するというもの。これにより、両親のDNAに由来する受精卵の核を維持しつつ、ミトコンドリアなどは健康なドナーのものとし、ミトコンドリアの異常に起因する病気が子どもに遺伝するのを防ぐという。
一方、ミトコンドリアには、ミトコンドリアDNAと呼ばれる少量のDNAが含まれている。通常は、母親のミトコンドリアDNAが子に受け継がれるが、MDT・MRTの場合、ドナーのものが受け継がれることになる。そのため、生まれてくる子は、遺伝的には「3人の親」を持つことになる。
MDT・MRTは、ミトコンドリアの異常に起因する病気の治療につながると期待される一方で、倫理的な面で懸念の声も上がっている。
英キリスト教慈善団体「CARE」のジェームス・ミルドレッド氏は、MDT・MRTの登場は「ある種の懸念材料」であり、それを利用した赤ちゃんの誕生は「倫理的な一線を越えてしまった」としている。ミルドレッド氏は、MDT・MRTには、生まれてくる子どもへの心理的影響や、受精卵の遺伝子操作により子に親の望む性質を持たせる「デザイナーベビー」につながる可能性など、多くの懸念があると語った。
「(受精卵の)核を宿主であるドナーの卵子に移植することは安全でなく、将来の世代に影響を与える可能性があることを示す証拠があります。また、使用される技術は人間の胚の破壊につながり、道徳的な問題が提起されます」
「さらに、生まれてくる子どもにどのような影響があるのかという、深刻な疑問があります。例えば、3人の親を持つという事実に対し、子どもが心理的にどのような反応を示すかは誰にも分かりません」
「このバイオテクノロジーが使われることで、たとえ善意であっても『デザイナーベビー』につながる可能性も出てきます。倫理的な一線を越えてしまったことは明らかです。何年か後に深く後悔することになるでしょう」