モスクワ総主教庁系のウクライナ正教会(UOC)の聖職者らが、ウクライナ政府から命じられている首都キーウ(キエフ)の大修道院からの退去を拒否し、抗議の姿勢を示している。
UOCが退去を命じられているのは、キーウ・ペチェールシク大修道院。千年近い歴史があり、世界遺産にも登録されているこの大修道院は、ウクライナ政府が所有し、UOCがこれまで一部を賃貸契約して利用してきた。
UOCはロシア正教会と歴史的なつながりがあるが、ロシアのウクライナ侵攻を受け、昨年5月にロシア正教会との関係断絶を宣言した。しかし、ウクライナ政府は聖職者の一部がロシア側と今も協力関係にあると疑っている。
ウクライナ文化省はUOCに対し、3月29を期限に大修道院からの退去を求めていた。
カトリック教会のローマ教皇フランシスコは退去期限を前に、ウクライナの「戦争当事者ら」に対し「宗教的な場所を尊重する」よう呼びかけていた。
また、ロシアのウクライナ侵攻を支持してきたロシア正教会のモスクワ総主教キリルは、国際社会と世界の宗教指導者らに対し、「ウクライナの信者数百万人の権利侵害につながる大修道院の強制閉鎖を防ぐためのあらゆる努力」をするよう呼びかけていた。
UOCの広報担当者であるクリメント・ベチェリア府主教は、英公共放送BBC(英語)に対し、大修道院からの退去命令は「法的根拠がない」と述べた。
クリメント府主教は、「もし政府がわれわれに違法にそれを強要するのであれば、それは全体主義というものだ」と批判。「そんな国家や政府は必要ない。われわれには憲法も法律もある。それ以外の方法は認めない」と語っていた。
大修道院の修道院長が2カ月の自宅軟禁に
一方、ロシア国営のタス通信(英語)がウクライナ現地の報道として伝えたところによると、ウクライナの裁判所は1日、大修道院の修道院長であるパベル・レベド府主教に対し、2カ月の自宅軟禁を命じた。
パベル府主教は、宗教的憎悪をあおり、ロシアのウクライナ侵攻を正当化したとして、ウクライナ保安局から起訴されていた。
パベル府主教は、大修道院にとどまるか、大修道院で行われる礼拝に出席することを許可するよう求めたが、裁判所はいずれも拒否。大修道院から42キロ離れたキーウ郊外の村での自宅軟禁を命じられた。
一方、動画をインターネット上にアップロードすることは認められた。検察側は動画のアップロードの禁止を求めていたが、裁判所は検察側の要求を退けた。
タス通信(英語)によると、1日にはパベル府主教が居住する大修道院内の建物が封鎖され、家宅捜索が行われた。
一方、ウクライナ文化省は財産目録作成のため3月30日に大修道院を訪れたが、大修道院の聖職者や信者らに阻まれ、立ち入りはできなかった。ウクライナ文化省と大修道院の双方は、退去を巡って法的な訴えを起こしており、4月26日に審理が予定されている。
キーウ・ペチェールシク大修道院は、現在のウクライナやロシアの起源とされるキエフ・ルーシ(キエフ公国)時代の11世紀に創立された。ウクライナとロシアに残る最古の修道院の一つとされる。
モスクワ総主教庁系のウクライナ正教会にも
ウクライナには、UOCの他に、キエフ総主教庁系のウクライナ正教会とウクライナ独立正教会が合併して2018年に設立され、翌19年にコンスタンティノープル総主教庁(トルコ)から承認されたウクライナ正教会(OCU)があり、2つの正教会が存在する。
BBC(英語)によると、多くの信者が近年、非モスクワ総主教庁系のOCUに移っているが、モスクワ総主教系のUOCにも依然として何百万人もの信者がとどまっているという。
ウクライナ保安局は昨年、UOCに属する大修道院や他の建物を家宅捜索し、親ロシア派活動を理由に聖職者61人を起訴した。裁判所はこのうち、ロシアとの囚人交換で交換された2人を含む聖職者7人を有罪にしている。一方、UOCは親ロシア派活動を示す証拠はないと主張している。