デンマークで、国防費の増額を目的にキリスト教の祝日を廃止する政府案が持ち上がっている。一方、5日には祝日廃止に反対し、5万人が参加する大規模なデモが同国最大の都市コペンハーゲンで行われた。
廃止が提案されている祝日は、300年以上の歴史がある「大祈祷日」と呼ばれる祝日で、キリスト教の祭日「イースター(復活祭)」後の第4金曜日に当たる日に祝われる。ロイター通信(英語)によると、今回のデモはここ10年余りで最大規模だという。
デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は昨年12月14日、国防費を予定よりも3年前倒しで、北大西洋条約機構(NATO)主導の目標値である国内総生産(GDP)比2パーセントに引き上げる策として、この提案を発表した。
フレデリクセン氏は、大祈祷日を廃止することで税収の増加が見込めると説明。その税収で、目標達成に必要となる45億デンマーク・クローネ(約840億円)の大半を捻出できるとしている。
デンマークは現在、フレデリクセン氏率いる中道左派の「社会民主党」と中道右派の「自由党」などによる連立政権が、僅差で議会の多数を占めている。ロイター通信によると、デモは国内最大の労働組合が主催したもので、労働組合や野党、経済学者からは、効果を疑問視する声も上がっているが、フレデリクセン政権はこの提案を押し通す構えだという。
大祈祷日は1686年、キリスト教のいくつかの祭日を1日に集約して正式な祝日となった。当初は祈りと断食を行う日として制定されたが、現在ではこの日に小麦のパンを食する習慣の方がよく知られている。
昔は教会の鐘が大祈祷日の開始を告げ、祝日が終わるまでパン作りを含む全ての仕事と商業活動が停止された。また、断食に加え、ギャンブルや旅行などの「世俗的」な事柄も断つよう促されるなどした。そのため、デンマークのパン職人たちは、前日の木曜日にバターをたっぷり塗った小麦のパンを焼き、翌日温めて食べるようになったとされる。
その後、パン作りは解禁となるが、現代のデンマークでは、大祈祷日はさまざまな教派のキリスト教徒が集まり、国や世界のために祈る日として重要な役割を果たしている。
デンマークには1770年まで、大祈祷日の他に22のキリスト教の祭日があったが、政府の改革により、約半数の祭日が廃止された。大祈祷日は、そうした改革を経て成立した祝日の一つだった。
デンマークでは2021年、デンマーク語以外の全ての説教を翻訳して政府に提出することを義務付ける法案が議会に提出されたこともある。法案は本来、イスラム過激派の説教者をターゲットにしたものだったが、「政治的な正しさ」に配慮し、キリスト教会も対象に含まれるようになったという。
しかし、法案に対してはキリスト教界含め各所から抗議の声が上がった。デンマーク教会協議会は、法案は「差別的で配慮に欠ける」などと批判し、フレドリクセン氏に再考を求めるなどしていた。