ロシアの軍事侵攻を受けているウクライナで、現地のクリスチャンたちは、地下室やシェルターに身を隠しながら、旧約聖書の詩編31編を読んで祈っている。詩編31編は、イスラエル最初の王サウルに追われた後の王ダビデが、荒野に逃れていたときに作った詩だとされている。敵に囲まれる中、「急いでわたしを救い出してください」と神に切願する祈りが繰り返しつづられている。
オーストラリア聖書協会が運営するニュースサイト「エターニティー」(英語)によると、詩編31編を読んで祈るムーブメントは、ウクライナの主席ラビ(ユダヤ教の指導者)の呼び掛けによるという。ウクライナ聖書協会のアナトリー・レイチネッツ副総主事はエターニティーに、「主席ラビが、この困難な時期に、われわれクリスチャンとすべてのウクライナ人に詩編31編を読むように突然呼び掛けたのです」と語った。
ウクライナのペンテコステ派教団「ウクライナ福音教会」(UEC)に属する首都キエフの教会「救い主キリストの神殿」は、地下室などで詩編31編を読むクリスチャンたちの姿をまとめた動画を公開。ウクライナ聖書協会がこの動画を共有したことで、米国や英国、カナダ、オーストラリアなど各国の聖書協会がその様子を伝えている。
詩編31編は、直面する困難の中で神の助けを切実に求める内容がちりばめられている。
主よ、御もとに身を寄せます。とこしえに恥に落とすことなく、恵みの御業によってわたしを助けてください。あなたの耳をわたしに傾け、急いでわたしを救い出してください。砦(とりで)の岩、城塞となってお救いください。(2~3節)
主よ、憐(あわ)れんでください、わたしは苦しんでいます。目も、魂も、はらわたも、苦悩のゆえに衰えていきます。(10節)
主よ、わたしはなお、あなたに信頼し『あなたこそわたしの神』と申します。わたしにふさわしいときに、御手をもって追い迫る者、敵の手から助け出してください。あなたの僕(しもべ)に御顔の光を注ぎ慈しみ深く、わたしをお救いください。(15~17節)
イエス・キリストが十字架上で語った最後の言葉「父よ、わたしの霊を御手にゆだねます」(ルカ23:46)も、6節の「まことの神、主よ、御手にわたしの霊をゆだねます」の引用だとされている。
一方、後半は慈しみと正義の神が力強く歌われ、「雄々しくあれ、心を強くせよ、主を待ち望む人はすべて」と信仰者を励ます内容になっている。
主をたたえよ。主は驚くべき慈しみの御業を、都が包囲されたとき、示してくださいました。恐怖に襲われて、わたしは言いました。「御目の前から断たれた」と。それでもなお、あなたに向かうわたしの叫びを、嘆き祈るわたしの声を、あなたは聞いてくださいました。主の慈しみに生きる人はすべて、主を愛せよ。主は信仰ある人を守り、傲慢な者には厳しく報いられる。雄々しくあれ、心を強くせよ、主を待ち望む人はすべて。(22~25節)
レイチネッツ氏は、この詩編31編について、エターニティーに次のように語っている。
「私は牧師でもありますが、今はこの詩編をこれまでとは違う読み方で読んでいます。なぜならウクライナの現在の状況について書かれているからです。数千年前に書かれたこの古代の祈りが今、まさに生きたものとなっていることを目の当たりにしているのです」
エターニティーによると、2日にはウォロディミル・ゼレンスキー大統領の呼び掛けで、ウクライナ国内のほとんどのキリスト教の教派、また他宗教の指導者がキエフの聖ソフィア大聖堂に集い、祈りをささげた。この祈りの集いには、デニス・モナスティルシキー内相も参加したという。