欧州における信教の自由の低下が懸念される中、ウィーンを拠点とする「欧州におけるキリスト教に対する不寛容・差別監視団」(OIDAC)がこのほど、キリスト教への不寛容や差別をめぐる最新の調査結果を発表した。調査では、2019年から20年にかけて欧州で反キリスト教ヘイトクライムが70%増加したことが明らかになった。
OIDACの調査報告書(英語)は、信教の自由や良心の自由の低下、および親権の自由の低下が、欧州のキリスト教徒にもたらす影響に着目している。報告書では、法律や政治的発言を通して政府によるキリスト教徒に対する「不寛容と差別の増加」が確認されている。また、「社会的排除や犯罪行為」を通して個人から受ける不寛容も指摘されている。
OIDACは、欧州安全保障協力機構(OSCE)の民主制度・人権事務所(ODIHR)が昨年11月に発表した年次ヘイトクライム報告書に注目。同報告書によると、欧州における反キリスト教ヘイトクライムは、19年は578件であったのに対し、20年は981件に増加した。「これが意味するのは、前年に比べ反キリスト教ヘイトクライムが70%増加したということです」とOIDACは報告書で述べている。「この数字は、私たちの言葉よりも雄弁です。これは、OIDACが10年以上前に設立された理由の一つです。欧州におけるこの現象について報告し、意識を高める組織が他になかったからです」
キリスト教に対する「世俗的な不寛容」と「イスラム教の抑圧」が高まる中、2年越しでまとめられたこの報告書は、フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、英国の5カ国におけるキリスト教徒の状況に焦点を当てている。
「私たちの調べによると、これらの国々が選ばれたのはキリスト教徒が非常な困難に直面しているからです」と報告書は説明している。「この調査結果は、私たちが収集したさまざまなデータに基づいています。データの大部分は記述された事例や広範なアンケート、専門家や渦中のキリスト教徒への綿密なインタビューに基づいています」
キリスト教徒に対するヘイトクライムは、フランスとドイツで頻度が高く、スペインとフランスではより深刻な内容になる傾向があるという。
「ドイツにおける反キリスト教ヘイトクライムの数は驚くほど多いものの、報告書の(対象となった)他の国ほど深刻ではありません」
「ドイツで見られた暴力事件は、主にプロテスタントやカトリックの教会、キリスト教の建造物に対して行われています。暴力の事例としては、破壊行為や略奪、落書き、器物損壊などがあり、ここ数年、高い頻度で増加傾向にあります。また、神父への身体的暴行、放火、彫像の首切りなど、明らかに偏見を示す深刻なケースもあります。OIDACは19年から20年にかけて、キリスト教徒またはキリスト教に関連する場所に対する255件の暴力的な攻撃を記録しています」
ヘイトスピーチの容疑で法的訴追を受けるケースは、英国が最も件数が多い。しかし、他の国々は自己検閲の割合が高いという。
良心的兵役拒否の権利は、スウェーデン、フランス、スペインで脅かされている。
「スウェーデンでは良心条項(良心や宗教上の理由で兵役などを拒む者にその義務を免除すること)の不在がすでにキリスト教の専門家に影響を与えており、フランスとスペインではこの条項を変更する動きが見られるため、特定の職業でキリスト教徒が完全に排除される恐れがあります」とOIDACは警鐘を鳴らしている。
教育分野では、「キリスト教徒の大学生は、特定のテーマについて自由に討論したり、差別や否定的な結果を伴わずに自分の意見を述べたりすることができないと認識しており、それが自己検閲による壊滅的な影響につながっています」と警告している。また、性教育や人間関係教育の分野で、これまで見られなかったさまざまな規制が親の権利を侵害しているとしている。
フランスとスペインでは、ほとんどがカトリック信者に対する攻撃だった。一方、ドイツと英国では、カトリック信者と非カトリック信者の両方が標的になっている。
OIDACは19年、スペインで信教の自由を侵害する175件の事件を記録したが、そのうちの140件(80%)がカトリック信者に向けられたものであった。同国におけるキリスト教徒に対する暴力事件は、19年は30件であったが、20年には51件に増加した。
ОIDACによると、「世俗的な不寛容」と「イスラム教の抑圧」は、教会や教育、職場、政治という4つの主要生活領域において、欧州のキリスト教徒に影響を与える主要な脅威的要因になっている。
「ほとんどの国でヘイトクライムが増加しているため、教会生活の領域が最も顕著に影響を受けているものの、教育や職場、政治への影響も大差がないことが分かりました」と報告書は述べている。
「私たちが監視したほとんどの事例や生活領域では、世俗的な不寛容が(ヘイトクライムの)原動力となっています。その一方で、イスラム教の抑圧は主に一部の集中した領域で起こっており、そこではキリスト教への改宗者が、既存のキリスト教徒と並んで最も影響を受けているグループとなっています」
報告書は、保守的なキリスト教の道徳観に対する反発が世俗的な不寛容につながると強調している。
「この両極化は、センセーショナルで宗教に無頓着なメディアによって促進されているようで、公の議論の場で宗教的な著名人に汚名を着せ、彼らを隅に追いやっています」
また、イスラム教からキリスト教に改宗した人は「非常に弱い立場」にあるとし、「私たちのデータは、彼らの多くが周辺社会から不寛容と暴力を受けていることを物語っており、彼らが直面する危機は国家当局によってしばしば無視されていることを示しています」としている。
さらに報告書は、新型コロナウイルスの感染拡大防止による集会制限により、欧州では教会が信教の自由を否定されたり、差別に直面したりしたと述べている。
「これは、役人による不当で不公平な権力の行使によるものか(スペインの場合)、公共の礼拝に対する不公平で場当たり的な禁止によって生じたもので、礼拝を必要不可欠でないものに格下げするものです」
ОIDACは20年7月、フランスで「反キリスト教的事件」が過去十数年間で285%増加したことを報告している。
ОIDACのエレン・ファンティーニ事務局長は当時、クリスチャンポスト(英語)に対し、フランス政府が08年に反キリスト教的行為として報告した事例は275件だったが、18年から19年にかけて、それが千件を超えるまで増加したと指摘。「(ヘイトクライム犯は)つまり、何らかの形で教会を破壊したり、公共のキリスト教関連の像を狙ったりしました。標的はキリスト教の墓地であったり、フランスのキリスト教徒に対する反キリスト教的な偏見を持った実際の襲撃だったりしたということです」と述べている。