ホスピスで患者の魂のケアに携わるオリブ山病院(那覇市)の田頭真一理事長が、いのちと老い、天国をテーマにした三部作『老金期』『全人医療とスピリチュアルケア』『死という人生の贈り物』を出版した。牧師で教育学博士、心理学博士でもある田頭氏は、キリスト教精神に基づき、体だけでなく心と魂までケアする全人医療の理論化と啓蒙に努め、医療従事者の教育に当たっている。三部作は、これまでの経験を踏まえ、ホスピスに携わる人にも、また一般の人にも分かりやすいようまとめ、書籍化したものだ。
『老金期』
3月に出版された『老金期』は、2018年に出版した『天国で神様に会う前に済ませておくとよい8つのこと』の改訂新版。「人は、どんな生き方をしたかで、成功か失敗かが決まるのではありません。『老いた』ということそのものが、一生懸命生きた証」と田頭氏は本書で語っている。
「人生とは、絶対評価でもなければ相対評価でもない。誰とも比べる必要はなく、ただ、その人が、『その人の人生』という唯一無二の道のりを一生懸命歩んできたこと、それ自体が称賛され、金メダルに値するのです。だから、金メダルは老金期を迎えた人の数だけある」
また、「老人は本当に、効率至上主義の社会構造に怯(おび)え、縮こまって、びくびくしながら生きるべきなのでしょうか。さもなければ、若い人には負けないと強がりを言って生きるべきなのでしょうか」と問い掛け、次のように語る。
「本書で私が語る『老金期』の生き方は、そのどちらでもありません。年老いた時期にしかできないこと。それは、人生を振り返り、噛み締めることです。老いて初めて、人生を味わうことができるようになるのです。老人が、『そのまま』を受け入れ、『そのまま』をその通りに生きることができるようになる。そうして人生の金メダルを受ける時、それが老金期なのです」
『全人医療とスピリチュアルケア』
聖書に基づいた「魂のケア」の在り方を提唱する『全人医療とスピリチュアルケア』には、日本におけるホスピスの第一人者である淀川キリスト教病院名誉ホスピス長の柏木哲夫氏が、「今日の日本の医療やケアの領域に必要な内容がしっかりと書かれている」と推薦文を寄せている。
病気や体の不調は、複雑な要因から起こってくる。精神的な事柄が体の不調の原因となることは、しばしばあることだ。「一見すると身体的な病気と思われる場合でも、その裏に精神的なこと、社会的なことが存在するケースがあることをしっかりと認識していることが大切」と柏木氏。その上で次のように述べ、本書を薦めている。
「本書をしっかり読むと、スピリチュアルケアの内容と実践がよく分かります。さらに分かりやすくいうと、私はスピリチュアルケアとは<たましいのケア>だと思っています。人間を構成している要素はからだ、こころ、社会、たましい、です。たましいのケアなくして全人医療は成立しません」
『死という人生の贈り物』
最後に、12月に発売された新刊『死という人生の贈り物』では、山城という75歳の男性が末期のすい臓がんで余命半年と宣告され、さまざまな葛藤を経ながら死を受容するまでの物語を描くことを通して、死に直面した人々が経験する各場面を分かりやすく解説している。
本書で田頭氏は、医療や医薬の発展によって、病との向き合い方が大きく変化してきたと指摘する。副作用が少ない上に高い効果のあるがん治療薬が開発されたことで、がんが完治する可能性や生存率も高くなった。だが同時に、がんと闘う期間は長期化し、余命宣告で緩和ケアに移行するという、従来あった治療期間と終末期の明確な区切りを失うことにもなった。そのため、以前のように緩和ケアでスピリチュアルケアを施す時間的余裕がなくなってきているという。
「死を受容できずに、自らの人生を振り返るでもなく、とにかく最期まで『治す』ことだけにフォーカスする生き方は、本人だけでなく、時として看取(みと)る側にも大きな弊害をもたらします。看取る側にとっても、その死によって家族や大切な人を奪い去られたような喪失感にさいなまれることもあります。このようなことから、人生の最後には医療的なケアに加え、魂のケアを含めた全人的ケア(体、心、魂のトータルケア)をする時間と場所が必要なのです」
本書にも推薦文を寄せた柏木氏は、「ホスピスが死に場所ではなく『最期までその人がその人らしく生き切るのに寄り添う』場所として認識されるよう期待しています」と語る。「山城のホスピスでの日々と彼の死を通して、人間のいのち、ホスピスの働き、信仰、家族などについて、読者に静かに語りかけた田頭真一先生の真摯(しんし)な筆致に感動しました。これらのことに関心を持っておられる方々にぜひ一読をお勧めいたします」
■ いのちと老い、天国をテーマにした三部作 田頭真一著
『老金期』(Amazon POD、2021年3月)
『全人医療とスピリチュアルケア』(いのちのことば社、2021年5月)
『死という人生の贈り物』(幻冬舎、2021年12月)