ナイジェリアのNGOがこのほど、この12年間で、イスラム過激派によって国内のキリスト教徒約4万3千人が殺害されたとする報告書(英語)を発表した。さらに、拉致されるなどして行方が分からないキリスト教徒は1万8500人に上り、襲撃を受けた教会は1万7500軒に及ぶという。
報告書を発表したのは、ナイジェリア南部アナンブラ州を拠点とするNGO「インターソサエティー」。集計期間は2009年7月から21年7月までの12年間で、過激派の暴力が最も激しい同国北部では、推定で1千万人のキリスト教徒が住居を追われた。また、この12年間に襲撃を受けた国内のキリスト教学校は2千校に及ぶという。
これらの襲撃に伴って行われた残虐行為には、「虐殺、殺害、身体切除、拷問、身体損傷、拉致、人質化、レイプ、女児虐待、強制結婚、失踪化、強奪、強制改宗、住居や神聖な礼拝所、教育施設の破壊や焼却」などが含まれている。こうした暴力について報告書は、「イスラム過激派のプロパガンダ活動」の結果によるものだと指摘している。
インターソサエティーは、キリスト教徒の犯罪学者であるエメカ・ウメアグバラシ氏が代表を務めるNGOで、信頼性が高いメディアの報道や政府の説明、国際的な人権擁護団体の報告、目撃者の証言などを基に統計データを作成している。しかし、ナイジェリアでは政府が記録の保存を十分に行っておらず、メディアや政府が発表する死者数は歪んだ推定値となっていることが多いという。
報告書は、過激派によるナイジェリア国内の死者数について、以下のように述べている。
「09年以降、つまり09年7月から21年7月までの12年間における、キリスト教徒の『直接』の死者数は、独自の集計によると4万3千人を下らない。この数字は、ジハード主義者が無防備な市民を7万2千人以上殺害したことに基づくものだ。同じく09年7月以降、ジハード主義者によって殺害された穏健派イスラム教徒の総数は、独自の集計によると2万9千人である」
また、「4万3千人を超えるキリスト教徒の死者数のうち、20パーセントに当たる8600人以上がナイジェリア・ブレザレン教会(EYN)のメンバーである」とし、これらの甚大な数の死者は、イスラム過激派とその協力者によって行われた「組織的かつ協調的な攻撃」の結果であるとしている。
今回の報告書は、国際的な人権擁護団体が、ナイジェリアにおける暴力の増加を懸念していることを受けて発表された。同国北東部では、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)やボコ・ハラムなどのグループが地域社会を襲撃し、数千人もの人々を殺害、拉致している。農村の多い同国中部では、過激化したフラニ族(多くはイスラム教徒)の牧畜民とみられる人々が、キリスト教徒が多く住む農村を襲撃している。しかし牧畜民の擁護者たちは、農村の若者たちも報復攻撃を行っていると主張している。
7月に発表されたインターソサエティーの別の報告書によると、ナイジェリアでは今年1月以降これまでに、過激派によって少なくとも3400人余りのキリスト教徒が殺害された。これは、前年の死者数に匹敵する規模だ(関連記事:今年すでに3400人以上のキリスト教徒が過激派の犠牲に ナイジェリア)。
インターソサエティーはこの報告書の中で、「国内で反キリスト教的な虐殺を行った責任者たちが、今日まで裁きを逃れ、調査も追跡も捜査もされず、裁判にかけられず、不処罰と残虐行為が繰り返されていることは大変悲しいことである。生き残った被害者や亡くなった犠牲者の家族も、ナイジェリア政府から完全に見捨てられている」と述べていた。
ナイジェリア政府は、過激派の攻撃から市民を適切に保護できておらず、加害者の責任を追及できていないという批判にさらされている。また、政府はテロリストへの身代金の支払いを否定しているが、同国では身代金目的の誘拐が「稼げる産業」となっている現実がある。