ナイジェリアの人権団体はこのほど、同国で1月以降、3400人を超えるキリスト教徒が過激派によって殺害されたとする推計を発表した。これは、キリスト教迫害監視団体「オープンドアーズ」が集計した昨年9月までの1年間の死者数に匹敵するもので、同国で過激派による迫害が深刻化している。
ナイジェリア南部アナンブラ州を拠点とする人権団体「インターソサエティー」は18日、今年に入ってからの200日間に、過激派によりキリスト教徒が少なくとも3462人殺害され、さらに少なくとも3千人が拉致されたとする報告(英語)を発表した。またこの間に、300以上の教会と聖職者10人が襲撃されたという。
ナイジェリアをめぐっては、世界中の人権活動家が、過激化したフラニ族の遊牧民による同国中部の農業地帯の襲撃や、イスラム過激派による北東部のコミュニティーへの致命的な攻撃について警鐘を鳴らし続けており、今回の報告はそうした状況下で発表された。
キリスト教徒の犯罪学者であるエメカ・ウメアグバラシ氏が代表を務めるインターソサエティーは、国内外のメディアによる報道、政府の説明、国際的な権利団体の報告、目撃者の証言など、信頼性の高い情報を基に統計データを作成している。ナイジェリアでは、政府が記録の保存を十分に行っていないため、メディアや政府が発表する死者数は推定値となり、歪められていることが多いという。
オープンドアーズは2月、ナイジェリアでは2019年10月から20年9月までの1年間に、3530人のキリスト教徒が殺害されたとする報告(英語)を発表している。インターソサエティーの今回の報告で発表された死者数3462人は、それをわずか68人下回るだけで、今年の残りの期間で死者数はさらに増加する可能性がある。報告によると、今年キリスト教徒の死亡記録が最も多いのはベヌエ州で450人が記録されている。2番目に多いのはカドゥナ州で410人となっている。
ナイジェリアでは多くの人が、政府の対応が不十分だと非難しており、インターソサエティーは報告で次のように述べている。
「ナイジェリア政府は、殺りくとその監督に加担しているという鋭い批判と強い非難にさらされ続けている。この国の治安部隊は、脆弱(ぜいじゃく)なキリスト教徒が脅迫や攻撃の危険にさらされているときにはほとんど介入せず、そのような攻撃の後にのみ現れて、脅迫や攻撃を受けた人々を逮捕し、罪を着せるようなことをしている」
政府は身代金の支払いを否定しているが、反政府勢力はしばしば自分たちの行動に対する説明責任を果たさなかったり、拉致により身代金を受け取ったりすることがあると指摘されている。
アフリカで最も人口の多い国であるナイジェリアは、オープンドアーズがキリスト教への迫害がひどい国をまとめた「ワールド・ウォッチ・リスト」(2021年版、英語)で、イスラム教による抑圧が「極度」に高いとして、世界で9番目に迫害が激しい国として挙げられている。
インターソサエティーは報告の中で、「国内で反キリスト教的な虐殺を行った責任者たちが、今日まで裁きを逃れ、調査も追跡も捜査もされず、裁判にかけられず、不処罰と残虐行為が繰り返されていることは大変悲しいことである。生き残った被害者や亡くなった犠牲者の家族も、ナイジェリア政府から完全に見捨てられている」と述べている。
キリスト教迫害監視団体「国際キリスト教コンサーン」(ICC)の報告によると、西アフリカでは2021年に入ってからイスラム教のジハード主義者による攻撃が増加しており、ナイジェリアがこの地域のどの国よりも標的になっているという。こうしたイスラム過激派は、カリフ制とイスラム教のシャリア法の確立を目指して、近年この地域で何千人もの人を殺害してきた。
ICCによると、オープンドアーズのサブサハラにおける信教の自由に関する上級アナリストであるイリア・ドゥジャディ氏は、「キリスト教徒はこの暴力によって特に標的とされ、不均衡な影響を受けています。このような暴力の加害者が、キリスト教徒や他のナイジェリア人を堂々と攻撃し続けることができるのですから、政府の対応は明らかに不十分です」と指摘している。