米イリノイ州の控訴裁判所は9日、カトリック教区が同性と結婚をした音楽監督を、カトリックの教えに反したとして解雇したことは合法的だったとする判決(英語)を下した。
同州などを管轄する連邦第7巡回区控訴裁判所はこの日、音楽監督を務めていたサンドル・デムコビッチ氏が教会側からハラスメントを受けたとして、聖アンデレ使徒小教区とシカゴ大司教区を相手取って起こした訴訟で、デムコビッチ氏側の主張を7対3で棄却する判決を下した。判決は、第7巡回区の判事3人が下した先の判決を無効とし、下級裁判所への差し戻しを命じている。
判決の多数意見を執筆したのは、ドナルド・トランプ前大統領に任命されたマイケル・ブレナン巡回判事。ブレナン判事は、宗教的雇用者のための「聖職者例外規定」は、聖職者対聖職者のハラスメントに基づいた「敵対的な職場環境」による損害賠償請求にも適用されると結論付けた。
「聖職者の人間関係の在り方は、裁判所ではなく宗教団体に任せるのが最善である。宗教団体の内部では、職場における聖職者同士の対立は憲法で保護される性格を帯びている」とブレナン氏はつづっている。
「解雇による損害賠償請求に対して、宗教団体が宗教的正当性を主張する必要がないのと同様に、敵対的な職場環境による損害賠償請求に対しても、宗教団体はその宗教的正当性を主張する必要はない」
「ある聖職者が他の聖職者の監督に際してなされた発言は、ある人にとっては厳しい助言であったとしても、他の人にとっては偏見となり得る」とし、教会に敵対的な職場環境があったとするデムコビッチ氏の主張を裁判所が考慮することは問題があるとブレナン氏は結論付けた。
「裁判所は、差別と懲戒をどのように区別すべきであろうか。あるいは敵意と助言をどのように区別すべきだろうか」とブレナン氏は問い掛け、「このような問い掛けは、宗教団体の権利を侵害することなく答えることはできない」と指摘した。
その一方で、反対意見を執筆したデイビッド・ハミルトン巡回判事は、多数派は「反論にほとんど意識を向けず」「従業員の権利を犠牲にして」判決を下したと主張した。
バラク・オバマ元大統領に任命されたハミルトン氏は、「このようなケースでは信教の自由に負担をかけたり、民事と宗教問題が絡み合ったりする危険性がある。しかし、憲法修正第1条は、いずれも断定的に否定するものではない」とつづった。
「しかし、本件において多数派は、敵対的な職場環境であるとする聖職者による訴えに対して広範な例外を採用している。これは妙に恣意的な方向性を生み出している」
その上でハミルトン氏は、多数意見は「民法と信教の自由のバランスを慎重に取ってきた長い慣習から逸脱している」とした。
シカゴ大司教区の代理人を務めたベケット法律事務所のダニエル・ブルームバーグ主任弁護士は、判決を歓迎。教会と音楽監督の間の聖職に関わる人間関係に対し、政府が干渉することはできないという裁判所の判決は「一般常識」だと述べた。
「礼拝は神聖なものです。だからこそ、礼拝の要素を選択し、それを実行する礼拝の指導者は、教えを信者に伝える聖職者なのです」とブルームバーグ氏は声明(英語)で述べている。「だからこそ、国ではなく教会は、音楽奉仕者が、その教義に忠実な形で信者たちを指導しているかどうかを確認する必要があるのです」
デムコビッチ氏は2014年に男性と結婚したが、それを理由に教会の音楽監督を解雇された。16年に大司教区と小教区を相手取り提訴。解雇は不当であり、さらに職場ではハラスメントを受けたとし、教会側が自身の障がいに基づいて敵対的な職場環境をつくったとも主張していた。