米コロラド州のケーキ職人ジャック・フィリップスさんが、自身のキリスト教信仰を理由に、性別移行を祝うバースデーケーキの制作を拒否したことをめぐる訴訟で、デンバー地裁は15日、フィリップスさんの行為は同州の差別禁止法に違反するとの判決を下した。フィリップスさん側は判決後すぐに控訴する方針を明らかにした。
フィリップスさんを訴えたのは、男性から性別移行したトランスジェンダーの女性であるオータム・スカーディナさん。デンバー地裁のA・ブルース・ジョーンズ判事は、スカーディナさんが「トランスジェンダーである」という理由で、フィリップスさんが「商品やサービス」を拒否し、違法な差別を行ったとした。
判決(英語)によると、スカーディナさんから注文を受けたフィリップスさんの妻は当初、6〜8人用の青色のフロスティングをした内側がピンクのケーキを作ることに合意していた。しかし、スカーディナさんがケーキのデザインに込められた意味を伝えると、ケーキの制作を拒否されたという。ジョーンズ判事は判決で次のように述べている。
「被告は、スカーディナさんがトランスジェンダーの女性としてのアイデンティティーを反映した色を選んだことを確認するまでは、要求されたケーキを喜んで作っていたことを認めている。しかし、被告はトランスジェンダーではない人のために、その人の性別を反映したケーキを作りたいと望んでいる。また、被告は他の客のために、同じ見た目のケーキを『喜んで』作るだろう」
一方、ジョーンズ判事は、「ケーキのデザインがより複雑で芸術的なものであったり、被告に帰属するメッセージがあからさまに表現されていたりした場合は、分析結果が異なる」可能性もあるとしている。
その上でジョーンズ判事は、「被告は、合理的な観察者がケーキによって伝えられたメッセージを被告に帰するという証拠を提示していないため、被告の表現行為に関する主張は失当である」と指摘。「被告は、要求されたケーキを提供することが、米国憲法修正第1条で保護される象徴的または表現的な言論であることを示す責任を果たしていない」とした。
フィリップスさんの代理人を務めるキリスト教保守派の非営利団体「自由防衛同盟」(ADF)のクリステン・ワゴナー弁護士は声明(英語)で、今回の判決を不服として控訴することを表明。「急進的な活動家や政府関係者がジャックのようなアーティストを標的にしているのは、自分たちの信念に反するような結婚や性に関するメッセージを宣伝しないようにするためです」と述べた。その上で、「私たちはこの決定を不服とし、すべての米国人が刑罰を恐れずに、深く信じた信念に従って平和的に生活し、働くことができる自由を守り続けます」としている。
フィリップスさんは過去数年間、同性婚者のためのウエディングケーキや性別移行を祝うバースデーケーキの制作を、自身の信仰を理由に拒否したことで訴えられ、法廷闘争を繰り返してきた。
同性婚者のためのウエディングケーキをめぐる訴訟では、1審、2審は敗訴したものの、米連邦最高裁は2018年、コロラド州公民権委員会がフィリップスさんに対し不当な扱いをしたとして、7対2でフィリップスさんを擁護する判決を下し、逆転勝訴した。
しかしその後、今度はスカーディナさんが19年6月に、性別移行を祝うバースデーケーキの制作を拒否されたことをめぐり、フィリップスさんとマスターピース・ケーキ店を相手取り訴訟を起こしたため、再び法廷に立たされることになった。
なお、スカーディナさんは当初、フィリップスさんが宗教上の理由でケーキ作りを断ったことが、コロラド州の差別禁止法だけでなく消費者保護法にも違反していると主張した。しかし、ジョーンズ判事は3月、消費者保護法に関する訴えについては棄却している。