障がい者や高齢者、野宿者など、災害時に「特別な配慮」が必要とされる人々への支援をテーマにしたオンライン学習会が15日、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会・災害対応タスクフォースの主催で開催され、約120人が参加した。学習会では、熊本地震の被災障がい者支援に当たった熊本学園大学の東俊裕教授が基調講演を行い、東日本大震災と2019年の台風19号で被災した多機能型事業所「ワークセンター麦」の伊東久美子園長、川崎市で野宿者支援を行う小林恵太修道士が、それぞれの経験や活動について語った。
新型コロナと障がい者 東俊裕(熊本学園大学教授)
日本の障がい者制度の改革などに関わってきた東氏はこの日、新型コロナウイルス感染症と障がい者についてさまざまな視点から語り、他の自然災害との違いや、現実に起こっている課題などを提示した。
新型コロナは、罹患による直接的な被害のほかに、人流抑制などの感染防止対策によって生じる二次的被害があり、まずその点が他の自然災害と大きく異なる。この二次的被害は、他の自然災害と比べて顕在化しづらく、そのため支援の方法も分かりにくいという。また、新型コロナは昨年から1年以上続いているように、被害が長期にわたり、復旧・復興の見通しも描きづらい。さらに、流行時は医療などの専門職の重要性が強調されるものの、ボランティアは逆に人流抑制の対象になってしまう。この他、被害が全国的、世界的であるため、被災していない地域が被災地を支援するという地域間の支援が機能しづらい点も、他の自然災害と異なる。
こうした状況の中、障がい者が直面する課題にトリアージ(医療資源配分の優先順位)の問題がある。東氏は、NHKの番組で取り上げられた海外の事例を紹介。英国や米国の幾つかの州では、障がい者の治療の優先順位を下げるガイドラインが出されたことがあり、ルーマニアでは精神障がい者施設で感染者が出た際、職員は治療を受けられた一方、精神障がい者は医療支援もないまま施設内に隔離され、多くが亡くなる事件があったという。東氏は、日本でも医療崩壊が深刻化すれば、同様の問題が顕在化すると語った。
その上で、新型コロナがまん延する中、昨年7月に発生した熊本豪雨を取り上げた。この豪雨では、熊本県内で65人が犠牲になったが、社会福祉協議会の災害ボランティアセンターは感染を恐れ、ボランティアの受け入れを県内に限定した。障がい者施設に対する経済的、設備的な支援は一定程度なされたものの、在宅障がい者の支援までは手が届かなかったのが現実だという。また、仮に在宅障がい者支援のための拠点を設置したとしても、福祉経験者を県外から募集することは難しく、東氏は「コロナの中でどのような支援ができるかは、私も分からないのが現状。忸怩(じくじ)たる思い」と語った。
災害現場からの声 伊東久美子(ワークセンター麦園長)
福島県須賀川市にある「ワークセンター麦」は、社会福祉法人福音会が運営する多機能型事業所で、「就労継続支援B型」などの障がい者向けの就労支援を行っている。東日本大震災では人的被害は出なかったものの、分場のさぬきうどん店が建物に大きな被害を受けた。また、福島第1原発の事故は、当時情報がほとんどなく、「息を吸っていいのか、外に出ていいのか」と悩むほど、どう対応すればよいかまったく分からない状況だったという。原発に近い太平洋側の地域の方がより混乱がひどく、県外避難を決めた人を涙で見送ったこともあった。精神的に不安定になった職員もおり、暴言を吐かれたことも。事業終了も真剣に考える状況だったというが、「障がい者の人たちは、早く日常を取り戻すことが大切。休まないで何とか支援を続けよう」と、3月24日には事業所の再開にこぎ着けた。
県外の多くの人から励ましの声が寄せられ、支えになったという。2019年には、台風19号で事業所が水没するという大きな自然災害に再び見舞われたが、法人の初代理事長が話していた「神は乗り越えられない試練をお与えにならない」という言葉に励まされ、活動を継続できたと語った。
宗教者の野宿者支援 小林恵太(アトンメントのフランシスコ会修道士)
カトリックの修道会「アトンメントのフランシスコ会」に所属する小林氏は、川崎市で25年以上野宿者支援を行っている「川崎水曜パトロール会」の活動から、宗教者としての野宿者支援について語った。川崎市にはかつて500人以上の野宿者がいたこともあったが、今年1月に行われた全国調査によると、現在は200人弱。厳冬期に行われた調査のため、正確な人数とはいえないが、それでも年々減少傾向にあるという。
新型コロナは野宿者にも大きな影響を与えた。それまで幾らかあった仕事に就ける人もほとんどいなく、多くはアルミ缶や金属回収で生活をしているという。また、地域住民や通行人から食料をもらっていた人も多くいたが、外出自粛により食料をくれる人手が減少。教会やNPOなどの団体も、炊き出しを中止せざるを得ず、食べるのに困る野宿者が増えた。
一方、東日本大震災では、川崎市の野宿者は直接的な被害は受けなかったものの、地震発生翌週当たりからある異変が見られたという。突然姿を消す野宿者が増えたのだ。他の野宿者に話を聞くと、福島第1原発の復旧工事のために関東周辺の野宿者が集められ、短期間で稼げることから川崎市でも多くの人が志願したからだった。
2019年の台風19号では、多摩川の一部が氾濫。川崎市の野宿者の約3割は、多摩川の河川敷に小屋を建てて生活しており、多くの人が被害を受けた。一方、甚大な被害が予想されたことから、川崎水曜パトロール会と川崎市の巡回相談員が前日、野宿者に対し必要があれば躊躇(ちゅうちょ)なく避難するよう呼び掛けていた。そのため、幸いにも人的被害はなかったという。
小林氏は10年以上の野宿者支援に携わっているが、最初は偏見があったという。しかし、野宿者一人一人と話し、その人生を聞き、生き様を見るうちに、「神がここに共におられる」と感じるようになったという。学習会の参加者には、野宿者だけでなく、周囲に困っている人がいれば関心を持ち、祈り、声を掛けてほしいと言い、そうすることで自分自身の信仰に立ち返ることができ、自身の信仰も強められると励ました。