「抵抗(レジスタンス)―死刑囚の手記より」「スリ」など映画史に残る名作を生み出したロベール・ブレッソン監督(1901~99)が、聖と俗の間で葛藤する若き司祭の姿を静かで穏やかな視線で捉え、独自のスタイルを決定付けた作品「田舎司祭の日記」が、制作から70年を経て劇場公開される。
日本では一部の特集上映やソフト化はされていたものの、本格的な劇場公開は今回が初めて。しかも4Kデジタル・リマスター版での上映となり、長い年月を感じさせない高解像度の映像でよみがえる。公開当時、ジャン・リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーを魅了し、「タクシー・ドライバー」(1976年)や「魂のゆくえ」(2017年)など、その後の多くの作品に影響を与えたとされる本作。フランス留学中だった若き日の遠藤周作も鑑賞し、日記に「立派なものだった」と書き残している。遠藤は、原作となったカトリック作家ジョルジュ・ベルナノスの文学作品も愛読していたという。
北フランスの寒村に赴任した若い司祭。彼は体の不調を覚えながらも、日々村人たちの悩みを聞き、布教と善行に務めていた。だが、彼の純粋な信仰への思いは、村人たちとの間に次第に溝をつくっていくことになり、事態は思いもよらぬ方向へ進んでいく――。ブレッソンはベルナノスの世界を忠実に再現し、司祭がつづる日記を通して神と自己の探究、信仰への懐疑や迷いに苦悩する姿を映し出していく。
「罪の天使たち」(1943年)、「ブローニュの森の貴婦人たち」(45年)に続く長編3作目に当たる本作は、職業俳優を排して素人を起用し、音楽やカメラの動きなども含めたいわゆる「演出」を削ぎ落としていくブレッソン作品のスタイル、自らが「シネマトグラフ」と呼ぶ手法を確立した作品。主人公である孤独な司祭役に抜てきされたクロード・レデュは素人俳優だったが、その後、幾つかの映画に出演。62年からは妻と共にテレビ番組の人形劇を制作し、フランスでは多くの人に忘れがたい記憶を残している。
6月4日(金)から、東京・新宿シネマカリテほかで全国順次公開。
■ 映画「田舎司祭の日記 4Kデジタル・リマスター版」予告編