世界の宗教指導者らがこのほど、富裕国による新型コロナウイルスのワクチン買い占めなど、「ワクチンナショナリズム」に警鐘を鳴らす公開書簡(英語)を発表した。宗教指導者らは、人類にはワクチンを「すべての国のすべての人」に届けるという「道徳的義務」があるとし、富裕国はこれを忘れてはならないと訴えている。
「コロナ危機は、私たちの相互依存関係と、私たちには互いを思いやる責任があることを思い出させてくれました。すべての人が安全な状況になってはじめて、私たち一人一人が安全だといえるのです。世界の一部でもコロナ禍に見舞われている状況があれば、世界のすべての地域のリスクは増加の一途をたどることになるのです」
書簡は4月27日に公開され、バチカン(ローマ教皇庁)人間開発省長官のピーター・タークソン枢機卿や、英国国教会の前カンタベリー大主教ローワン・ウィリアムズ、南アフリカ聖公会のケープタウン大主教タボ・マクゴバら、キリスト教やユダヤ教を中心に145の個人と団体が署名している。
宗教指導者らはまた、コロナワクチンの生産を「大規模に」スケールアップし、世界のすべての人にワクチンが十分行き渡るようにするよう求めている。
世界では今も多くの国が感染者数の増加に苦しんでおり、特にインドでは、1日の新規感染者数が40万人を超えるなど、壊滅的な感染拡大が続いており、病院や火葬場が逼迫(ひっぱく)している。しかし、多くの低中所得の国は少量のワクチンしか確保できておらず、国を挙げたワクチン活動により、すでに膨大な件数の接種を行い、在庫も十分にある北半球の一部の国とは対照的である。
「人の生命を救うコロナワクチンの入手は、富や地位、国籍によって左右されてはなりません。私たちは、この危機の解決を市場に任せ、兄弟姉妹への責任を放棄することはできません。また、同じ地球上にいながら、他の国に対して義務がないふりをすることもできません」
「この前例がない公衆衛生の危機は、何よりも世界的な連帯を強め、すべての人々が兄弟姉妹として共に立ち上がることが必要です。科学者らが息をのむようなスピードでコロナワクチンを開発し、病気の人々を何とかして助けたいという団結の精神と共通の目的によって、政府、市民社会、民間部門の指導者を励まし、ワクチンの生産を大幅に増やし、世界中のすべての人がワクチン接種を受けるのに十分な量を確保できるようにする必要があります」
この書簡は、平等なワクチン接種を訴える団体と活動家の連合体である「民衆のワクチン連盟(People’s Vaccine Alliance)」の活動の一環として出された。同連盟を支援する慈善団体の一つである英キリスト教国際援助団体「クリスチャン・エイド」のフィオナ・スミスさんは、製薬会社は特許にかかわらずコロナワクチンに関する情報を共有し、ワクチンの生産方法と分配方法を変える必要があると訴える。
「すべての人が安全に暮らせるようにするには、世界的な共通善として、コロナワクチンをすべての人にできるだけ早く行き渡らせることです」
クリスチャン・エイドの国際アドボカシー責任者であるスミスさんは、「自社の独占を守り、生産を制限し、価格を押し上げるための障壁を設け、私たち全員を危険にさらしています」と製薬会社を批判し、次のように述べた。
「どの製薬会社も、全世界に行き渡るほどのワクチンを一社で生産することはできません。ワクチンによる解決策が鍵をかけて保管されている限り、十分なワクチン量を確保することはできません。私たちは、利益優先のワクチンではなく『民衆のワクチン』を必要としているのです。世界で最も貧しく、最も取り残されたコミュニティーにワクチンを公平に提供できないことは、道徳的な問題であり、世界が正面から立ち向かうべきものです」