「南米のビリー・グラハム」と呼ばれた世界的な伝道者、ルイス・パラウ氏が11日朝、米オレゴン州ポートランドの自宅で死去した。86歳だった。2018年1月に末期の肺がんであることを公表して以来、3年にわたり闘病生活を続けていた。自身の伝道団体であるルイス・パラウ協会が同日、発表した。
1934年、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス近郊の小さな町で、スペイン系の父親と、フランス人とスコットランド人の血筋を引く母親の元に生まれた。10歳で父親を亡くし、家族は貧困に苦しむが、12歳の時に参加したサマーキャンプでイエス・キリストを救い主として受け入れる。60年、宣教師であった米国人牧師の招きに応じて渡米。ポートランドのマルトノマ聖書学校(現マルトノマ大学)在学中に、後に妻となるパトリシアさんと出会った。ビリー・グラハム氏のラジオ放送で伝道者を志し、後にはグラハム氏の伝道集会でスペイン語の通訳を務めるなどした。78年にルイス・パラウ協会を設立。グラハム氏とは生涯にわたり親交を持った。
米国籍取得後も母国アルゼンチンや中南米に対する重荷を持ち、主にスペイン語圏での伝道活動に注力。中南米では各国の国家指導者に何十人も会い、直接福音を伝えた。中南米以外の国々でも積極的な伝道活動を行い、65年間の伝道者生涯で訪れた国は80カ国を超え、世界で500回以上の伝道集会を開催した。冷戦下の旧ソ連で伝道集会を開催できた数少ない外国人伝道者の一人でもある。
テレビやラジオを用いた伝道にも力を入れ、スペイン語と英語による3つの国際ラジオ番組は毎日48カ国で放送されている。著書や小冊子の出版も多く、最も人気のある小冊子『本当のクリスチャンとは何か?』はこれまでに60カ国以上で1千万部以上が配布された。伝道集会やテレビ、ラジオ、印刷物などを通じて福音を伝えた人は10億人を超えるとされ、2018年にはその生涯を描いた映画「パラウ・ザ・ムービー」も公開された。
信仰の諸問題にはっきりとした立場を示し、聖書の教えに沿った活気に満ちた健康的な霊的生活の重要性を強く訴え、大統領や上流階級層、ビジネスリーダー、聖職者を含め世界中のリーダーたちから高く評価された。生前には「少年時代からの年月を、福音のために費やしてきたことに後悔はありません。もし私に千回の人生が与えられても、そのすべてを同じ天職にささげます」と述べ、伝道者としての生涯に誇りを持っていた。
米国のゴードン・コンウェル神学校、ダラス神学校、マルトノマ大学で理事を務め、ウィートン大学やタルボット神学校などから複数の名誉博士号を授与された。4人の息子がおり、長男ケビンはルイス・パラウ協会の会長兼CEOとして、次男キースは同協会の開発チームの一員として働いている。三男アンドリューは自身も伝道者として活躍しており、四男スティーブンはポートランドで小学校の教師をしている。
発表(英語)によると、追悼式はポートランドで参加者を限定して行われるが、模様はインターネットでライブ配信される予定。
パラウ氏の死去を受け、世界のキリスト教指導者は相次いで追悼のコメントを発表した。ビリー・グラハム氏の息子で自身も伝道者であるフランクリン・グラハム氏は、フェイスブック(英語)に「パラウ氏は、イエス・キリストの福音を忠実に説教した情熱的な伝道者でした」とコメント。父だけでなく、自身にとっても長年の親友であったと述べ、その死を惜しんだ。
福音派の世界組織である世界福音同盟(WEA)は、パラウ氏について「世界史上最も偉大なスペイン語圏のキリスト教伝道者」であっただろうとその働きをたたえ、現職を含め歴代の総主事3人のコメント(英語)を発表した。3月に就任したばかりのトーマス・シルマッハー総主事は、「パラウ氏は、神がその賜物を西洋人だけでなく、世界中のすべての人々に与えていることを示す目に見える証拠です」と述べ、ルイス・パラウ協会や中南米の諸教会が世界のキリスト教共同体に果たしてきた貢献に感謝を示した。