英国の「国際宗教・信条の自由全党議員連盟」(APPG-FORB)がこのほど、新型コロナウイルスの局所的な発生について、一部の宗教グループが不当に非難されたり、ヘイトスピーチの標的にされたりしているとする報告書を発表した。報告書はまた、一部の国では当局が新型コロナウイルスに伴う状況を利用し抑圧を強めているとも指摘している。
同議員連盟は、報告書「国際的な宗教及び信条の自由に関する現状についての解説(2020)」(英語)で、一部の宗教グループが「陰謀論やヘイトスピーチの標的になっている」と指摘。「宗教や信条に基づくコミュニティーは、このウイルスのために非難され、感染拡大のスケープゴートにされ、無責任な『スーパー感染源』として責められ、公衆衛生対策の実施に抵抗的であるとか、『インチキ』な治療法を広めているとか、予防接種に反対しているなどとして批判されている」と報告している。一方でこうした攻撃は、「これらの問題に関する当局の失政から注意を逸らすための利己的な試みにすぎない」と断じている。
国連の宗教・信条の自由に関する特別報告者によると、新型コロナウイルスの発生以後、反ユダヤ主義的なヘイトスピーチが増大しているという。また、英国のユダヤ人人権擁護団体「コミュニティー・セキュリティー・トラスト」(CST)によると、ユダヤ人が新型コロナウイルスを作り広めているなどとする陰謀論まで存在するという。
ヒンズー教徒が多数派のインドでは、感染拡大初期にイスラム教の宣教師20人余りが陽性反応を示したことで、「バイオテロリスト」「コロナジハード」などのレッテルが貼られ、各地でイスラム教徒に対する暴行事件が発生した。さらに政府当局は公衆衛生を守るという名目で、3千人以上のイスラム教徒を40日以上にわたって拘束したという。
一方、イスラム教が多数派のイラクでは、必要な食料や医療品の供給においてキリスト教のコミュニティーが後回しにされたという報告が多数寄せられた。これは同じくイスラム教が多数派のパキスタンでも同様で、NGOが少数派のヒンズー教徒やキリスト教徒に対しては支援を拒否、あるいはイスラム教徒の後にしか支援をしないということがあったという。ウガンダでは、政府の新型コロナウイルス対策に関わる宗教評議会に7つの宗教団体しか参加が認められず、宗教的少数派が政府の感染防止策から組織的に排除された。
報告書は、英外務省の再編成に伴い、同議員連盟が同省職員に宗教や信条の自由が特に懸念される国について周知するために作成した。報告書には、宗教や信条の自由の「著しい」侵害が見られる国として、中国やインド、イラン、ナイジェリア、北朝鮮、パキスタンなど、24カ国が挙げられている。
「多くの国にとって、パンデミックが、彼ら(宗教的少数派や社会的弱者)が直面してきた抑圧と重圧のさらなる深化の背景となっているという結論を避けることは困難である。一部の国は、『国際社会の関心が他の場所に向けられている』という機会を利用し、抑圧的な慣行を復活させている」
「この報告書が明らかにしているように、多くの疎外されたコミュニティー(少数派の宗教や信条を持つコミュニティーを含む)が、世界的なパンデミックの発生以来、確かに差別の激化、おそらくは大量虐殺にさえ直面している」
報告書はこの他、ジェンダーの違いが宗教や信条の自由に及ぼす影響も指摘。ジェンダー差別が再びクローズアップされる中、その程度は「衝撃的」だとし、「ジェンダー差別の長年の影響は、すでに被っていた人間性の剥奪、不平等、侵害を悪化させている」としている。
同議員連盟は英外務省に対し、宗教や信条の自由を人権問題において特に優先的な課題として、また新型コロナウイルスへの対応における重要事項として積極的に認識するとともに、紛争におけるジェンダーと性暴力の問題にも継続的な関心を向けるよう求めている。