アフリカ北部のリビアでコプト教徒21人が過激派組織「イスラム国」(IS)に殺害されてから丸6年がたつことを記念した式典が15日、オンラインで開催された。式典では、コプト正教会のアレキサンドリア教皇タワドロス2世のほか、カトリック教会のローマ教皇フランシスコや英国国教会のカンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビーらが動画でメッセージを伝えた。
ISに殺害された21人は当時、リビアで出稼ぎ労働者として働いていた。20人はエジプト出身で、1人はガーナ出身。ISは2015年2月15日、黒づくめの戦闘員らがオレンジ色の服を着せた21人を斬首する映像をインターネット上に公開し、世界に衝撃を与えた。その後、コプト正教会は殉教した21人を列聖し、毎年2月15日を「現代殉教者の日」として記念している。
新型コロナウイルスの影響によりオンラインで開催された今年の式典(英語)は、コプト正教会のアドボカシー公共政策室とロンドン教区の共催。ロンドン教区のアンバ・アンジェロス大主教は、「私たちがここで話すのは、コプト正教会やコプト教徒に対する攻撃についてではありません。なぜなら、苦しみや迫害は私たちのものだけではないからです」と述べ、「迫害とは人間性を奪い、人を物として扱い、私たちの人間性の核心であり、私たちの内にある神のかたち、神の似姿を奪い取ることです」と伝えた。
「21人の証し人を通して、私たちは回復することを学び、寛大さを学び、親切が何であるかを学び、私たちを殺そうとする者を文字通り愛することを学び、赦(ゆる)すことを学びました。だから私たちは、彼ら証し人たちに感謝しています」
「これがクリスチャンとしての召しであり、私たちがどのような者かということです。これを語らず、あらゆる信仰の人々また信仰を持たない人々のために共に立ち上がらないのであれば、私たちは自分自身に対して真実ではなくなります。なぜなら私たちは皆、人間性を共有しているからです。私たちが抑圧や迫害に立ち向かうとき、私たちの人間性は豊かになり、私たちは勝ち得るのです」
コプト正教会は、伝承では新約聖書の「マルコの福音書」を書いたマルコが、エジプトにアレクサンドリア教会を創設し始まったとされている。エジプトは現在、イスラム教徒が人口の約8割を占め、約1割のコプト教徒は国内では少数派だが、中東に存在するキリスト教の教派としては最も大きなグループの一つを形成している。コプト正教会のトップである教皇タワドロス2世は式典で、21人を含め信仰の故に殉教した人々について次のように語った。
「信仰を証しするために勇気を持って死と向き合うことができるすべての殉教者の信仰を誇りに思っていることは事実です。しかし、人類の辞書から一掃されるべき言葉である迫害を、私たちは決して容認することはできません。私たちはまた、人間の命の価値に対する大きな確信を持っています。人間の命は神からの贈り物であり、どのような手段であっても、それを終わらせる権利を持つ人間はいないのです」
「主イエス・キリストへの信仰を証しすることは、たとえ命をささげることによってであっても、喜びに満ちたものであることは、すべてのクリスチャンによく理解されています。だからこそ、私たちは今日、『わたしにとって、生きるとはキリストであり、死ぬことは利益なのです』(フィリピ1:21)という聖句を完全に理解しながら、リビアの愛する殉教者、また信仰のすべての殉教者の記念を祝うのです」
英国国教会の首席聖職者であり、世界に広がる聖公会の霊的最高指導者であるウェルビー大主教は次のように語った。
「現代の殉教者を記念するこの日、『血のエキュメニズム』の現実を感じさせられます。私自身は、家族に現代の殉教者がいる英国国教会の仲間の主教によっても思い起こさせられることですが、この出来事は私たちに、エキュメニズムそして連帯とは、迫害されている人々と共にあることであり、彼らの血によって彼らと団結するためのものであり、単に迫害されている人々のために何かを感じる、あるいは迫害されている人々の方に向かって立つ、というだけのものではないということを思い起こさせてくれます。『共に』がキーワードです」
教皇フランシスコは次のように語った。
「私は血のバプテスマ(洗礼)を心にとめます。これら21人の男性たちは、クリスチャンとして水と聖霊のバプテスマを受け、そしてあの日、血のバプテスマも受けたのです。彼らは私たちの聖人であり、すべてのキリスト者の聖人であり、すべての教派の聖人です」
「これが悲劇であったことは事実であり、彼らがあの浜辺で命を落としたことは事実ですが、彼らの血によってあの浜辺が祝福されたのも事実です。そしてさらに真実なのは、彼らの純粋さ、彼らの純粋でありながらも一貫した信仰から、彼らはキリスト者が受け取ることのできる最大の贈り物を受けたということです。それは、自身の命をささげるまでイエス・キリストを証しするということです」
式典にはこの他、ローマ教皇庁キリスト教一致推進評議会(PCPCU)議長のクルト・コッホ枢機卿、駐英ローマ教皇大使のクラウディオ・グゲロッティ大司教、英国国教会トゥルーロ教区のフィリップ・モーンスティーブン主教、デイビッド・アルトン上院議員、英国の宗教・信条の自由特別大使であるフィオナ・ブルース下院議員、世界キリスト教連帯(CSW)のマービン・トーマス創立会長、カトリック系支援団体「エイド・トゥー・ザ・チャーチ・イン・ニード」(ACN)のネビル・キルケ・スミス会長、殉教した21人の人生をまとめた『ザ・21』(英語)の著者であるマルティン・モーゼバッハ氏らが出席した。