日中韓の宗教者が参加する宗教平和国際事業団(IPCR)主催の国際セミナーが1月27日、オンラインで開催された。キリスト教からも、日本の山本俊正氏(日本キリスト教協議会〔NCC〕元総幹事)や韓国のパク・チャンヒョン氏(監理教神学大学准教授)、中国の朱杰(ジュ・ジェ)氏(中国カトリック北京教区事務総長)ら、3カ国から多くが出席し発題を行った。
IPCRは韓国宗教人平和会議(KCRP)が設立した団体で、東北アジアに欧州連合(EU)のような共同体を構築することを目指し、2009年から毎年セミナーを開催している。今年は新型コロナウイルスの影響で初めてオンラインでの開催となり、各国が担当する形で3つのセッションが行われた。日本からは、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会の関係者らが中心となって参加した。
排他性を内包したキリスト教の歴史
中国が担当したセッション1では、中国宗教平和委員会(CCRP)委員で外交学院国際関係研究所教授の周永生(ジョウ・ヨンション)氏が、「宗教文化にまたがる対話―アジア文明共同体を作り上げる」と題して主要発題を行った。WCRP日本委の理事でもある山本俊正氏は、セッション1のパネリストの一人として発題。「アジア文明共同体」の構築には、宗教の持つ排他性に対する歴史的な反省が不可欠だとし、キリスト教の歴史を振り返った。
山本氏によると、キリスト教が排他性を内包するようになったのは、313年にミラノ勅令が発布され、その後ローマ帝国の国教として認められるようになってから。それまでは迫害の対象だったが、国教化されたことにより「絶対権力の僕(しもべ)」に変容したと山本氏は言う。さらに、戦争を「正当な戦争」と「不当な戦争」に区別する「正戦論」が、アウグスティヌスやトマス・アクィナスらキリスト教の神学者によって形作られ、キリスト教が戦争にお墨付きを与えるようになっていった。
一方で歴史を振り返ると、世界にはさまざまな「宗教戦争」があったものの、中には国家が「宗教戦争」を偽装した戦争も多くあったと指摘。山本氏はこうした歴史を振り返りつつ、宗教は国家に利用されないよう注意を払う必要があると語った。また、国家が戦争に突き進もうとするときは、宗教が本来持つ平和の教えと価値観に従って、勇気を持って戦争や暴力に反対することが必要だと訴えた。
パンデミックで示された「宗教の二つの顔」
続くセッション2は韓国が担当し、セギル基督社会文化院院長のジョン・ギョンイル氏が「パンデミックの時代、宗教の二つの顔」と題して主題発題を行った。ジョン氏は、新型コロナウイルスのパンデミックに襲われた韓国社会において、特に一部のプロテスタント教会でクラスター(感染集団)が発生したことにより、批判が集中したことを取り上げた。一方、社会的な批判は避けられたものの、カトリックや仏教、その他の宗教も人々が期待を寄せる存在にはなり得なかったとし、「今回のパンデミック時代は宗教に対する社会的な期待が一番低くなった時代として記憶されるだろう」と語った。
しかしその一方で、社会に不確実性をもたらしたパンデミックは、人々の宗教心を呼び起こしたとも指摘。パンデミックは人々に、保健医療的な危機や経済的な危機ばかりではなく、精神的な危機をももたらしており、宗教は「心理的・霊的なワクチン」として役割を果たせるのではないかと語った。また、パンデミックは社会の不平等と差別をさらに深め、「災難の中の災難」を経験している人々がいると指摘。宗教が手を差し伸べるべきは、そうした社会の最も弱い立場にいる人々だと語った。その上で、ドイツの神学者ディートリヒ・ボンヘッファーが、教会は「他者のための存在」であると語ったことに触れ、宗教が真に「他者のための存在」になるならば、再び人々から信頼を得られるだろうと伝えた。
セッション2のパネリストの一人として発題したCCRP委員で中国イスラム学院准教授の楊会営(ヤン・フイイン)氏は、キリスト教とイスラム教の2つの宗教の視点から応答した。キリスト教に関しては、2~3世紀にローマで疫病が発生した際、多くのキリスト教徒が自らの危険を顧みず、感染者を献身的に世話したことを紹介。また、宗教改革の時代には、マルティン・ルターらキリスト教指導者が医学の進歩を重視し、「医者は私たちの主なる神が派遣してくれた体の修理工」などと言って、民衆の教化に努めたことなどを取り上げた。
一方、別のパネリストである監理教神学大学准教授のパク・チャンヒョン氏は、ジョン氏の主要発題に対し、宗教が人々からの信頼を得ようとするあまり、人間本位の方向に進んでしまうことへの危険性を指摘。人間中心の文化と資本主義が現在のパンデミックを生んだとする声もあるとし、「繁栄だけを追い求めて全速力で直進する機関車のような世の文化に、宗教が制御装置の役割を果たすべきではないか」と提言した。
宗教者としてパンデミックにどう向き合うか
日本が担当したセッション3では、WCRP日本委理事・平和研究所所長で武蔵野大学名誉教授の山崎龍明氏が、「新型コロナウイルス禍の中の人間と宗教者のあり方」と題して主要発題を行った。山崎氏は、東京オリンピック・パラリンピックの開催時期と新型コロナウイルスの感染拡大が重なった日本を例に挙げ、「経済」と「いのち」のどちらを取るかでジレンマに直面する社会の姿を提示。その上で、仏教の教えと実践である「四諦(したい)八正道」から、新型コロナウイルスにどのように向き合うかについて、仏教者としての見解を述べた。
セッション3のパネリストの一人として発題したCCRP委員で中国カトリック北京教区事務総長の朱杰(ジュ・ジェ)氏は、今回のパンデミックも神が人類に与えた判断と選択の時期だと捉えていると語った。何が重要で何が重要ではないか、何が必要で何が必要ではないかなどを区別する時期だとし、今一度いのちの方向性を再設定・再調整する歴史的な機会だと信じていると述べた。
同じくパネリストの一人として発題したWCRP日本委平和研究所所員で清泉女子大学教授の松井ケティ氏は、新型コロナウイルスをめぐるこれまでの取り組みは「パッチワーク的」だったと指摘。問題は目に見えないより深いところにあるとし、二者択一の単純化された解決策ではなく、時間をかけても長期持続可能な解決策を模索する必要があると語った。