日本カトリック正義と平和協議会(正平協)は1月29日、新型コロナウイルス対策の感染症法改正案が28日に与野党で合意されたことを受け、菅義偉首相に対し、改正案への懸念を示す声明を発表した。声明は、「改正案に盛り込まれた入院拒否の感染者に対する罰則は、感染者への差別や偏見を助長し、住民同士が互いに監視し合うといった分断を社会にもたらすことが懸念されます」と指摘。過去にハンセン病やエイズなど、感染症の患者に対するいわれのない差別や偏見が存在した「歴史の苦い教訓」を生かした賢明な対応を求めた。
改正案は29日の衆院本会議で審議入りし、2月3日に成立する見通し。自民、立憲民主両党による事前の修正協議で、当初の政府案に盛り込まれていた刑事罰はすべて削除されたものの、入院を拒否した感染者に「50万円以下の過料」を科すなどの罰則規定は残った。
声明では、「罰則は、これを恐れて検査を回避し、感染が潜在化するなど、感染防止にかえって障害となることが容易に想像されます」と指摘。さらに、保健所や医療機関と受診者との間に本来保たれるべき信頼関係を壊す恐れがあるほか、ただでさえ多忙な保健所、医療機関にさらに荷重な負担がかかることが想像されるとした。
感染症法がらい予防法やエイズ予防法などの反省の上に制定されたことに触れ、「感染者は何よりも守られるべき存在であるのに、刑罰は、むしろ感染者を犯罪者扱いし、社会から排除し、差別するよう、人々に促す働きがある」ことを忘れてはならないとした。
その上で、感染者の入院拒否が起こる背景に何があるのかを考えるよう呼び掛け、「まずは誰もが安心して入院できる医療体制および生活保障、病床数、医師、看護師などの医療従事者の数の拡充などの制度上の整備が必要」とした。また、新型コロナウイルス感染症に関する啓発に加え、介護や育児などの再生産労働を軽視し分担しない社会や家庭の構造、病に対する日本社会特有の忌諱(きい)の感情などを教育によって変えていく長期的な取り組みが必要だと指摘。「誰もが健康的な生活を望むことのできる社会は、罰則によっては実現しません」と訴えた。