パキスタンのラホール高裁は15日、イスラム教に対する冒瀆(ぼうとく)罪により無期懲役を宣告され、控訴審の延期により10年にわたって勾留され続けていたキリスト教徒のイムラン・ガフール・マシフさんに対し無罪を言い渡した。マシムさんの家族は「私たちにとってはクリスマスの贈り物」と判決を歓迎した。米迫害監視団体「国際キリスト教コンサーン」(ICC)が同日、ホームページ(英語)で発表した。
ICCによると、マシフさんは2009年7月1日、同国東部の都市ファイサラーバードにあった家族が経営する書店の掃除をしていた。掃除の過程で出てきた古い書籍や書類を焼却しようと考えたが、アラビア語で書かれた書籍が出てきたため、宗教書であることを懸念したマシフさんは、隣人のイスラム教徒であるハジー・リアカット・アリさんに相談した。燃やしても構わないと言われたため火の中に入れたが、マシフさんがその場を離れた間に、アリさんは一部が燃えた書籍を取り出し、マシフさんがイスラム教の聖典であるコーランを燃やしたと虚偽の告発をしたという。
マシフさんの家族によると、アリさんは、マシフさんの家族が経営していた書店の隣で建築材を販売しており、事業拡大のため、書店に貸し出されていた店先の土地取得を狙っていたという。
この事件はすぐに地元のイスラム教徒の間に広まり、マシフさんの家には400人近い暴徒が押し寄せ、マシフさんや家族を殴るなどした。その後警察が駆け付け、マシフさんを逮捕。ファイサラーバードの裁判所は翌10年1月11日、冒瀆罪によりマシフさんに無期懲役と10万パキスタン・ルピー(約6万4千円)の罰金を命じた。マシフさんは控訴したが、控訴審は70回近く延期され、10年にわたって勾留され続けた。
ICCによると、パキスタンでは個人的な復讐(ふくしゅう)や宗教的な憎悪のために、冒瀆罪が利用されるケースがあるという。こうした告発は扇動的な場合があり、大規模な抗議行動を引き起こす可能性もある。マシフさんの家族も、無罪判決が出たものの、過激派からの脅迫を恐れて、現在は身を隠しているという。
パキスタンでは現在、冒瀆罪をめぐる21の事件で、計24人のキリスト教徒が勾留されている。ICCの南アジア地域担当マネージャーであるウィリアム・スターク氏は、マシフさんの無罪判決を歓迎する一方、マシフさんとその家族の安全への懸念を表明。「冒瀆法の乱用を阻止し、虚偽の申し立ては処罰し、根絶しなければなりません。これらの法律は、宗教的に動機付けられた少数派に対する暴力をあおる過激派の道具となっていることがあまりにも多いのです。改革がなければ、宗教的少数派は、冒瀆罪の虚偽告発とそれに伴う暴力に直面し続けることになるでしょう」と語った。