日本聖書協会が毎年、聖書普及に貢献した人物や団体を表彰する「聖書事業功労者」に、今年はカトリック大阪大司教区の和田幹男神父(82)が選ばれた。1987年に発行された『聖書 新共同訳』と2018年に発行された『聖書 聖書協会共同訳』の2つの聖書翻訳に貢献したほか、長年にわたる聖書の研究や大学教育、司牧活動を通して、日本における聖書理解の普及に努めたことが評価された。
表彰式は例年12月初旬に「日本聖書協会クリスマス礼拝」と併せて行われるが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて11月6日に関係者のみの非公開で行われ、28日に同協会のユーチューブチャンネルで公開された。
和田神父は1938年、神戸市生まれ。61年に上智大学文学部哲学科を卒業し、63年に同大学院哲学研究科を修了。66年にローマ教皇パウロ6世(当時)により司祭に叙階され、67年にローマ教皇庁(バチカン)立ウルバノ大学で神学博士、71年にバチカン立聖書研究所聖書学部で聖書学修士を取得した。英知大学(聖トマス大学)や同志社大学などで教鞭を執り、カトリック箕面(みのお)教会(大阪府箕面市)、カトリック関目教会(大阪市)で主任司祭を務めた。
聖書翻訳事業では、72年から87年まで新共同訳聖書旧約聖書翻訳委員と編集委員を兼任。2010年から18年までは聖書協会共同訳聖書検討委員を務めた。
健康上の理由で表彰式を欠席してコメントを寄せた和田神父は、「たいへん光栄に思うとともに、身に余る思い」と感謝の意を示し、自身が翻訳者兼編集委員として関わった新共同訳で、イエスの名の表記を「イエス」とするか「イエズス」とするかが大きな論争となったことに触れた。
「当時、私はこのように説得したことを覚えています。『プロテスタントの人々がイエス様を<イエズス>と呼ぶ苦しみを味わうよりも、私たちカトリック教会が<イエス>を受け入れて、自分たちでキリスト教一致の障害を取り除こうではありませんか。小さい頃から<イエス>を受け入れ、慣れ親しんでいるプロテスタントの人々よりも、カトリック教会のわれわれが<イエス>を受け入れる苦しみを担おうではありませんか』。私は当時、カトリック大阪教区の司祭研修会でも、参加した司祭の皆さんに、こう言って協力を求めました。『このようにして、日本の教会にイエスの2つの呼び名が存在することを、われわれの世代で終わらせようではありませんか』と。すると、大阪教区の司祭がたは拍手して賛同くださいました」
和田神父は、「聖書をプロテスタントとカトリックで共同で翻訳することによって、日本におけるキリスト教徒の一致が深まりました」と述べ、「このたび聖書協会が発行した『聖書 聖書協会共同訳』においても教会一致のための聖書の役割を深く感じます。この聖書が新共同訳聖書と同じように、プロテスタントとカトリックの垣根を越えて、さらに用いられていくことを願ってやみません」と期待を示した。