米連邦最高裁は25日、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事が新型コロナウイルス感染症対策として宗教施設に対して行った規制について、憲法が定める信教の自由を侵害するものだとして提訴したカトリック教会の教区と正統派ユダヤ教のグループの訴えを支持する判決を下した。これにより、同州における宗教施設に対する規制は一時的に差し止められることになる。
提訴したのは、カトリック教会のニューヨーク・ブルックリン教区と、正統派ユダヤ教のグループ「アグダス・イスラエル・オブ・アメリカ」、およびその複数のシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)とラビ(ユダヤ教の指導者)ら。それぞれ別々に訴訟を起こしたが、最高裁は「ブルックリン教区対クオモ氏訴訟」の判決で両者を取り上げ、5対4でクオモ氏の規制は信教の自由を侵害するものだとする判断を下した。
判決文(英語)によると、最高裁は法廷意見で「本裁判所の判事は公衆衛生の専門家ではなく、この分野で特別な専門知識と責任を持つ人々の判断を尊重すべきである」としつつも、「しかしパンデミックであっても、憲法を脇に置いたり、忘れたりすることはできない」と指摘。「本訴訟において問題とされている規制は、多くの人が宗教的な礼拝に出席することを事実上禁止するもので、米憲法修正第1条が保障する信教の自由の中核に接触するものである」としている。
クオモ氏は、新型コロナウイルスの感染状況に応じた新たな行動計画を発令し、感染が最もひどい「赤」の地域では、宗教施設における礼拝参加者を10人に、「オレンジ」の地域では25人に制限するよう命じていた。最高裁はこうした規制が、米憲法修正第1条が保障する「宗教の自由な行使」を侵害し、「取り返しのつかない損害」をもたらす可能性があるとした。
また他の施設に対する規制と比較して、「この規制は、礼拝所を特別に厳しい扱いにしており、中立的なものとは見なされない」と批判。「これまでに裁判所に提出された新型コロナウイルス感染症関連の規制よりもはるかに厳しく、パンデミックの被害を受けた他の多くの地区で採用された規制よりもはるかに厳しく、原告の礼拝においてウイルスの拡散防止のために求めている必要事項よりもはるかに厳しいものである」としている。
最高裁はまた、提訴したブルックリン教区やシナゴーグは再開後、州のガイドラインに沿った感染症対策を行っており、これらの施設で感染が拡大したことを示す証拠がないことにも言及した。
この法廷意見に対する同意意見でニール・ゴーサッチ判事は、クオモ氏は多くの企業に対しては営業を続けることを認めており、「宗教的な場所に対して異なった対応を取る唯一の理由は、そこで行われていることは、世俗的な場所で行われていることほど『不可欠』なものではないと判断しているからのようだ」とコメント。「確かに、知事はこのことについて非常に率直な意見を述べている。彼の判断では、洗濯や酒、旅行、道具などはすべて『不可欠』であるが、伝統的な宗教的実践はそうではない。それはまさに米憲法修正第1条が禁じている差別です」と断じた。
クオモ氏は10月、新型コロナウイルス感染症対策のための新しい行動計画を発表。陽性者数に応じて、地域を「赤」「オレンジ」「黄」の3つに分け、段階別に異なる制限を課していた。クオモ氏はまた、社会的距離を置くことを定める知事命令に従わない教会やシナゴーグに対しては、閉鎖を命じるとしていた。
ジョン・ロバーツ首席判事は、リベラル派の判事3人と共に反対意見を述べ、原告らが所在する地域は現在、「赤」や「オレンジ」ではないとして、クオモ氏の命令を差し止める必要はないと指摘した。提訴したブルックリン教区やアグダス・イスラエル・オブ・アメリカのシナゴーグがある地域は現在「黄」になっており、各施設には定員の50パーセントの人が集まることが可能となっている。
リベラル派のソニア・ソトマイヨール判事は反対意見で、宗教の自由な行使は「私たちの最も大切にされ、厳重に守られている憲法上の権利の一つ」とし、「国家は、このような致命的な危機に直面した場合でも、宗教団体を差別してはならない」と指摘した。しかし「これらの原則は今日、危険にさらされてはいない」とし、「憲法は、州が宗教団体を世俗的な団体と同等かそれ以上の規制を通じて公衆衛生の危機に対応することを、特にこれらの規制が人命を救う場合、禁じているわけではありません。ニューヨーク州の新型コロナウイルス感染症に関わる規制はまさにそれを行うためのもので、私は敬意を持って(法廷意見に)反対します」と述べた。