30年にわたりイスラム教が国教とされてきたスーダンのアブダラ・ハムドク首相は3日、エチオピアの首都アディスアベバで、反政府勢力「スーダン人民解放軍(SPLM)北部」の指導者、アブデルアジズ・アダム・アルヒル氏と会談し、国教を廃止し、すべての国民に信教の自由を保障することで合意した。「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA、英語)などが伝えた。
VOAによると、2人が署名した合意文は「国家は国教を制定しない。いずれの国民も、その宗教に基づいて差別を受けない」と宣言。「スーダンは、多人種、多民族、多宗教、多文化の社会である。これらの多様性の完全な認識と調和が確約されなければならない」としている。2人はこの他、国民の自決権など、現在も議論が行われている課題を解決するため、非公式の交渉の場を設けることでも合意した。
キリスト教メディア「エバンジェリカル・フォーカス」(英語)によると、この合意の4日前の8月31日には、南スーダンの首都ジュバで、スーダンの暫定統治機構「主権評議会」のモハメド・ハムダン・ダガロ副議長が、17の反政府武装勢力の連合体である「スーダン革命戦線」(SRF)と和平合意を締結。ここでは、スーダン南部のキリスト教コミュニティーの権利を保障するため、信教の自由に関する委員会を設置することでも合意した。
スーダンは、昨年4月にオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領が失脚するまで、30年にわたる独裁政権が続いてきた。バシル政権下では、西部ダルフール地方で、政府側の弾圧によって30万人が犠牲になる「世界最悪の人道危機」とされる紛争が起き、2011年には、長年内戦が続いていた南部が「南スーダン」として分離独立するなどした。
30年にわたりイスラム教を国教としてきたバシル政権が崩壊した後は、信教の自由も次第に取り戻され始めており、7月中旬には、イスラム教に対する冒とく罪による死刑が撤廃された。
スーダン・南スーダン司教協議会会長のオベイド司教トムベ・トリリアは、バチカン(ローマ教皇庁)のフィデス通信(英語)に対し、次のように述べ合意を歓迎した。
「この国の人々は慎重です。それは、1956年に独立してから今日に至るまでの私たちの国の歴史がそうさせるのです。しかし、今回の和平合意はスーダンの大部分の地域をカバーしており、最終的に署名にまで至ったことは非常に重要です。私たちは皆、とても幸せです」
米ピュー研究所のデータ(英語)によると、スーダンは国民の90・7パーセントがイスラム教徒で、キリスト教徒は5・4パーセント。キリスト教迫害監視団体「オープン・ドアーズ」は、キリスト教徒に対する迫害がひどい50カ国をまとめた「ワールド・ウォッチ・リスト」(2020年版、英語)で、スーダンを7位に挙げている。