トルコ・イスタンブールにある東方正教会のシンボル的大聖堂で博物館として使用されていた「アヤソフィア」を、イスラム教のモスク(礼拝所)とするよう決めたレジェプ・タイイップ・エルドアン大統領は、4世紀初頭に建てられた別の歴史的教会もモスクにすると発表した。
AP通信(英語)によると、エルドアン氏は同国の不透明な政治経済状況の中で自身の基盤である保守層の支持を得るため、イスタンブールにある「コーラ聖救世主教会」(別名・カーリエ博物館)をモスクに改装するため、国内の宗教的権威に引き渡すよう正式に命じた。
コーラ聖救世主教会は4世紀初頭、ローマ帝国の皇帝コンスタンティヌス1世によって建てられ、1453年にイスタンブールがオスマン帝国に征服されると、皇帝メフメト2世によりモスクとして転用された。1945年にトルコ政府により博物館とされ、その後、米国の美術史家らの支援で教会内部のモザイク画が復元され、58年からは一般公開されている。アヤソフィアと同様、世界遺産にも登録されている。
正教会の信者が多いギリシャの外務省は声明を発表し、世界遺産を「再びあからさまに侮辱する」行為だと非難。「これはすべてのキリスト教徒に対する挑発だ。われわれはトルコが21世紀に戻り、文明間の相互的な尊重と対話と理解を持つよう求める」と述べた。
フランスの国際放送局「フランス24」(英語)によると、トルコの野党・国民民主主義党のガロ・ペイラン議員はツイッターで、「わが国の恥」だとした上で、「わがの国の深く、多文化的なアイデンティティーと多宗教からなる歴史を象徴するものの一つが犠牲にされた」と述べた。
オスマン帝国に詳しい歴史家のゼイネップ・トゥルキルマズ氏はAFP通信に、モスクとして公開する前にはキリスト教に関係する装飾を隠すため、教会の壁は覆いを掛けられ、漆喰(しっくい)で塗り固められることになるだろうと述べ、こうした行為は「破壊」だと非難。「フレスコ画やモザイク画は建物全体に施されているため、隠すことなど不可能だからです」と述べた。
エルドアン氏は7月10日、「トルコ人は、1500年前にアヤソフィアを最初に建てた者たちと同等の権利をアヤソフィアに対して持っている」と言い、イスラム教の礼拝を開くためにアヤソフィアをモスクにすると発表した(関連記事:アヤソフィアのモスク化 教皇「非常に悲しい」 WCC、再考求める)。その後、同月24日にはアヤソフィアでイスラム教の礼拝が行われ、モスクとしての利用が始められている。
アヤソフィアは537年、正教会の大聖堂として建立された。その後、約900年間、東方正教会の拠点としての役割を果たし、15世紀にオスマン帝国の支配下となってからは、皇帝メフメト2世によりモスクに改装された。現在のトルコが樹立された後は、ムスタファ・ケマル・アタテュルク初代大統領が1934年にアヤソフィアでの礼拝を禁止し、宗教的に中立な博物館にするよう命じた。